読んでたのしい、当たってうれしい。

街の十八番

御菓子司 中里@駒込

揚げた「最中」 口伝のレシピ

5代目の鈴木俊さん。後ろの「中里」の看板は3代目が書いたもの
5代目の鈴木俊さん。後ろの「中里」の看板は3代目が書いたもの
5代目の鈴木俊さん。後ろの「中里」の看板は3代目が書いたもの 出来たての「揚最中」(1個186円)。伊豆大島産の焼き塩を使うことで、まろやかな風味になるのだという

 最中(もなか)は数あれど、皮をゴマ油で揚げた「揚最中」は珍しい。現在、店は家族5人で営む本店と大丸東京店の2店舗あるが、商品は全て本店で手作りされている。

 皮を揚げる作業は2人で行うチームプレー。1人が種に衣を付けて鍋に入れ、もう1人が焦げ目に注意しながら揚げていく。30秒ほどの作業だが、1回に出来る数は6、7枚。毎日4時間の作業になるという。5代目の鈴木俊(たかし)さん(64)は「油は繰り返し使うと悪くなる。入れ替えながらの手作業なので、大量には出来ない」

 店の創業は1873(明治6)年。日本橋の和菓子店として始まり、関東大震災を機に今の場所に移る。揚最中はこの頃、3代目の嘉吉さんが考案した。しかし、その開発経緯は一切不明。唯一残されていたのは材料が箇条書きされたノートだが、作り方は記されていなかったという。レシピは口伝で受け継いできた。

 揚げた皮は塩を振り、店頭に並ぶ直前であんこを挟む。甘くてしょっぱい、家族が作る味。最近は手土産に買っていく若い客も増えている。

(文・写真 町田あさ美)


◆東京都北区中里1の6の11(TEL03・3823・2571)。午前10時~午後6時((土)(祝)は5時まで)。(日)休み。駒込駅。

(2018年4月20日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

街の十八番の新着記事

  • 水戸元祖 天狗納豆@水戸 茨城といえば納豆というイメージをつくったのが水戸の「天狗(てんぐ)納豆」。

  • 大和屋@日本橋 東京・日本橋、三越前に店を構えるかつお節専門店。江戸末期、新潟出身の初代が、魚河岸のあった日本橋で商いを始めた。

  • 佐野造船所@東京・潮見 水都・江戸で物流を担ったのは木造船だった。かつて、和船をつくっていた船大工は今はほとんど姿を消した。佐野造船所は、船大工の職人技を代々受け継ぎながら生き延びてきた。

  • 天真正伝香取神道流本部道場@千葉・香取 「エイ」「ヤー!」。勇ましいかけ声と木刀の打ち合う音が響く。千葉県香取市、香取神宮のほど近く。約600年連綿と伝えられてきた古武術、天真正伝(しょうでん)香取神道流の本部道場だ。

新着コラム