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気になる一品

紙と石以外はぜんぶ絶滅メディア博物館にあっていい。

絶滅メディア博物館

  カメラ、携帯電話、ウォークマン、トランシーバー……。使わなくなったけれど捨てられない、と次々寄贈されてくる古今東西のメディア機器類をずらり展示する一風変わった私設博物館、「絶滅メディア博物館」(東京都千代田区)。川井拓也館長の「紙と石以外のメディアはすべて絶滅する」という考えにもとづいて開館したといい、新聞社に勤めている私は半信半疑ながら、副館長のバーバラ・アスカさんを取材しました。次第にお話は深まっていき、独自の考えに圧倒されつつ、総じて古いメディア機器へのあふれる愛に感動しました。

(聞き手・島貫柚子)

※絶滅メディア博物館は、8月27日付朝日新聞夕刊「気になる一品リターンズ」に登場しました。

 

 

――絶滅メディア博物館とはどんな博物館なのでしょうか。

 「紙と石以外のメディアはすべて絶滅する」というコンセプトに基づいた私設博物館です。昨年2023年1月に東京・大手町に開館しました。

 電子メディアは実はすごく寿命が短い。電気がなかったらそもそも使えません。私はパソコンを使い始めて30年くらい経ちますが、当時のフォーマットで今は使えないものもいっぱいあるわけです。たとえば今はwordかtextであれば、だいたい読めますけども、wordが普及する前はもう本当に様々なテキストエディターがありましたので、それで保管しちゃった文章は専用の読み取りソフトがなければ最新のパソコンでは読めなかったりします。

 紙と石が長持ちしているのは事実だと思います。メソポタミヤ文明の楔型文字が刻まれた粘土板はいまだに現存していますが、じゃあ今私たちがしている膨大な、たとえばXであるとかFacebook上でのやりとりは記録として残るのでしょうか。記録メディアも、たとえば容量の膨大なハードディスクも落下に弱いなどの弱点があります。一方で、紀元前3000年代から紀元後1000年までに使われたエジプトのパピルスなんて今も保管されていたりしますので、昔からあるものほど残るっていうのは歴然たる事実だと思うんです。そういうわけで、「紙と石以外のメディアはすべて絶滅する」という川井館長の考えには同感です。

 

――カメラやタイプライター、音楽プレーヤーなど色々と所蔵なさってるとのことですが、全体としての収蔵数はどのぐらいでしょうか。

 収蔵品は2千点、展示しているのは約1500点です。どの機器が多いかは何とも言えませんが、館長は映像を仕事としているものですから、8mmカメラ、 8mm ビデオカメラ、デジタルビデオカメラは多いですね。

 

――収蔵品は色々なところから寄贈されたのだと聞きました。

 8割は寄贈いただいたものです。

 

――バーバラさんの私物もあるのでしょうか。

 私物もあります。あとは、私や館長が購入し、博物館に寄贈したものもあります。それはもう全体からすると微々たるものですが。2023年に「帰ってきたポラロイド展」というものを企画しまして、寄贈品だけでは展示が偏ってしまうので、あるといいなと思ったものを市場で購入したことがありました。

 

――展示品にはガラケーもあるのでしょうか。

 はい。館長の方針で、スマートフォンは収蔵していません。個性がないので、よっぽど変わっているもの、たとえばガラケー時代のスマートフォンのご先祖みたいな機種は収蔵しています。一時期、ガラケーがスタイリッシュさをこぞって競う時代がありました。いかにかっこよく作るか。当時、あのデザインはキレキレでしたし、私も持っていました。

 

――そのほかに貴館が収蔵しているガラケーの特徴を教えてください。

 ストレートや折りたたみ型、今では当たり前になりましたが、その先駆けになったシャープ製の携帯電話もあります。あとは、ガラケーの中にはキーボード付きの携帯がありました。iPhoneが発売される前から存在していた「Black Berry」も日本で人気がありましたね。あとは「ワンセグ」はご存知ですか?

 

――携帯でテレビが見られるあれですよね。

 そうです。テレビを見るために ワンセグの技術が開発されたんですよ。開発は大変だったのに、あっという間に消えちゃいましたけど。で、ワンセグ見るために画面が回転する携帯があるんですよ。

 

――なんとなく覚えてます。縦から横にカチャって回転する……

 そうそう。カチャって回転する。そんないろいろな見た目の機種がありますが、携帯電話が普及し始めた頃って、基本色が「黒」なんですよね。

 

――そうなんですね?

 たぶん、ビジネス用途がメインだったからだと思うんです。それが普及してくると、だんだんカラフルになってくる。

 

――私が中学生くらいの頃、ソフトバンクの携帯のカラーバリエーションが豊富で、当時CMをやっていた気がします。

 売り上げ台数が増えてくると、カラーバリエーションが作れますけど、最初は黒しかないわけです。と、まあこういう辺りは、見ていただいて面白いところじゃないでしょうか。

 

――館内は、そんな変遷が見られるような形で展示されているのでしょうか。

 正直言って、そうはなっていないです(笑)。もう現状はただただ詰め込んでいる感じでしょうか。メーカーごとに分類してはいますが、ガラケーに関してはまだ未収蔵の機種も多く、全貌がつかめていないというのが正直なところで、とても整理研究まで手が回っていないのが現状ですね。

 ですから、お客様の方が詳しかったりするわけです。メーカーの方で、「これ僕が開発したんですよ」という方も結構いらっしゃるので、情報提供をお願いすることもあります。

 

――展示しきれずにしまっているものも多々あるのでしょうか。

 はい。私は勝手に一軍、二軍と呼んでいます。館長は別にそんな言い方していませんが。展示はごく一部です。もちろんすべての収蔵品を展示したいのはやまやまなのですが、展示場所には制限がありますので、やむなく一部を展示しています。

 

――展示品でバーバラさんのおすすめはありますか。

 館長が推すなら大正時代の 8mm カメラなどかと思いますが、私の推しは「ソロカル」ですね。

 

 

――ソロカル?

 そろばんとカリキュレーター(電卓)が合体したシャープ製の「ソロカル」という製品がありまして。シャープは、何かと何かをくっつけるのがすごく得意な会社なんです。実際そういう製品も多いですし。

 たとえば「ラテカピュータ」っていう、コンピューターを内蔵したテレビラジカセとか。シャープの社員さんに聞いても知らないと言うぐらい、これは結構マイナーな商品で。あとは、テレビとファミコンをくっつけた「ファミコンテレビ」とかもあるんですが、その最たるものが「ソロカル」だと私は思っています。

 当時はそろばんの脇に電卓を置いてお店をやってる方が結構多かったらしく、需要があったんでしょうね。

 

――ソロカル……

 あとはバンダイが全然売れなかったと公認している「ピピンアットマーク」ですね。「世界で最も売れなかったゲーム機」とも言われています。それもやっぱり、初めて見たという人が多いですね。

 

 

 NHK の経済番組「神田伯山のこれがわが社の黒歴史」という番組の第 1 回を飾ったのもピピンでした。それで、ピピンを知る業界の人たちは激震したのですが、2回目以降の番組の商品がかすんでしまうぐらいインパクトのある黒歴史で……。よくバンダイが企画を許可したものです。

 その、ほとんど売れなかったピピンが寄贈されました。「現物を初めてみました」というお客様は多いですよ。「ソロカル」は、海外の博物館にもあるそうです。海外の方からすると、もう意味わかんないでしょうね(笑)。「ソロカル」は本当に見てほしいです。

 「ピピン」は1996年販売なので下手すると島貫さんがお生まれになった頃でしょうし、ソロカルに至っては私が生まれてわりとすぐかもしれない(ソロカルは1979年発売)。

 まあ、どっちも鬼っ子と言いますか、爆発的に売れるものでもなかった。もちろんピピンは爆発的に売りたかったでしょうけど。なので、その二つは当館で見られるめずらしい展示物ですね。

 カセットテープもたくさん収蔵があるんですが、今カセットテープは、むしろまた流行り始めていますよね。さっきの推しにもう一つ付け加えるなら、ティアックの「オーカセ」ですね。カタカナで「オーカセ」。

 

――オーカセ?

 音楽をやっている方って、オープンリールのテープにすごく憧れがあるんですよね。オープンリールは、カセットはなくてリールに巻いたままの音楽テープのことです。

 

 

 でかいんですよ、オープンリールの機材って。それで、プロの使う高級機材ということですごく憧れがあって。それをカセットテープで実現したのが「オーカセ」。でもこれは、なんちゃってオープンリールで、ちっちゃいリールのテープがあって、それをカセットテープの中に装着するという商品なんですよね。私も買いました。

 すごい使い勝手が悪くて、売れなかったんですが、中古市場ではいま結構高いんですよ。口で説明するのが難しい商品ではありますが、見ると結構バカっぽくて笑えます。私は寄贈いただいたとき懐かしくて、すごく嬉しかったです。

 だから私が推したいのは、「ソロカル」「ピピン」「オーカセ」です。ぜひご覧になっていただきたいです。

 

――読者へのメッセージをお願いします!

 いわゆるガジェットと呼ばれるものや、カメラが好きであるとかいう方であれば、どなたでもすごく楽しめると思いますし、当館はすべての展示品が手に取れるハンズオンの博物館ですので、楽しい経験ができると自負しております。ぜひ、当館に遊びにお越し下さい。

 

絶滅メディア博物館 東京都千代田区内神田2の3の6の1階(☎03・5256・5700)。午前11時~午後7時(土・日は不定期開館。臨時休館あり。詳細は公式Xで)。2千円。

 

絶滅メディア博物館★公式
https://twitter.com/extinct_media

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