大きな吹き抜けにひな壇状のフロア。プラネタリウムのようなドーム屋根。役所らしからぬ建物なのはなぜ?
新幹線の車窓からも見える丘の上、掛川市役所本庁舎は小山に寄り添って立つ。1996年、掛川城の敷地にあった旧庁舎が手狭になったため、移転した。
設計チームの統括は、東京のパレスサイドビルや中野サンプラザなどを手がけた日建設計の林昌二(1928~2011)。56年完成の旧庁舎を設計した縁から再登板した。
「真に市民に開かれた庁舎とは?」。当時の榛村純一市長(故人)は設計チームに問いかけた。その答えの一つが、中央部分に広がる吹き抜け空間、アトリウムだ。ガラス張りの壁面から自然光が注ぎ、緑豊かな景色を取り込む。
アトリウムには、各課がある2~4階のフロアが段々に張り出す。「訪れた人が庁舎の造りを一目で分かるようにした」と、設計を担当した同社の若林亮さん(64)。階の行き来がしやすいよう、まっすぐな階段でつないだ。
各階のアトリウム側にはテーブルをいくつも置き、自由に利用できるテラスに。職員が打ち合わせをしたり、訪れた人が職員と話したり休憩したり……。庁舎完成後は1市2町合併などを経て職員や課の数も変動したが、「開かれた庁舎のシンボルだから」(市職員)とテラスは完成時のままだ。
林は完成後、市庁舎は文字通りのシティホールだと語ったという。庁舎の大部分の用途はオフィスだが、オフィスビルではない。オフィスでない部分こそ大事だ、と。
外観を特徴づけるドーム状の屋根の部分は、扇を二つ合わせたような形。市民と行政が手を合わせた「民主主義」をイメージしたという。
その真下には議場がある。一般的な議場は市長らと議員が向かい合う座席配置だが、ここは円形。「相対するのではなく車座になって議論するのが大切」と榛村氏が発案した。
庁舎は2023年度、日本建築家協会のJIA25年賞を受けた。長く存在価値を発揮し、美しく維持され、地域に貢献したと評価された。庁舎周りに植えた木が育って木立になったように、建物に込められた当時の思いは今も根を張っている。
(木谷恵吏、写真も)
DATA 設計:日建設計 《最寄り駅》:掛川市役所前 |
車で約10分のJR掛川駅北口は木造の外観を残す駅舎で、杉板の外壁と三角屋根が特徴。隣接する「matcha KIMIKURA(抹茶きみくら)掛川駅フラッグシップストア」(☎0537・64・6633)は抹茶を使ったラテやスイーツを販売する。