1970年の大阪万博時に建てられた万国博美術館を活用し、77年に開館。2004年に移転して、世界でも珍しい完全地下型の美術館になりました。第2次大戦以降の現代美術を扱っていますが、近年は、美術界にも根強かったジェンダーバイアスや西洋中心の見方を見直し、女性作家やアジアの作家の作品をリサーチし、積極的に収集・展示しています。
6月1日まで開催中のコレクション展「Undo, Redo わたしは解く、やり直す」も、この流れに位置づけられます。
今展を企画する時に意識した作品の一つが、手塚愛子の「織り直し#04」です。絵画用の木枠に張られた2種の織物をほどいた糸が中央で手織りされています。
学生時代に油絵科を専攻していた手塚は、「白いキャンバスに描く」という、明治期に日本に持ち込まれた西洋絵画の形式が、当然のように受け入れられていることに疑問を持ちました。自分自身のキャンバスとは何なのか、と模索してたどりついた作品です。
使った織物は、どちらも既製品です。既製品の中にある織物の歴史や先人の営みを参照し、吟味し、手を加えることで、誰も見たことのないような作品が生まれています。
ブブ・ド・ラ・マドレーヌのインスタレーション作品は、ミラーボールの光がきらめく空間の中央に、金網でできた人魚が浮いています。鯨のような姿をした人魚は作者によれば、二つの領域を行き来する存在です。
人魚の腹部からこぼれ落ちるのは自身の古着から作られた内臓で、旗が天に向かって翻っています。臓器の摘出や皮膚の病などの自身の経験から発想を得た作品です。「『不完全』な身体は不幸である」という固定観念からの解放や再生を表しています。
両者の作品はともに、さまざまな既成の概念をほぐし、新たな価値を提示するものと言えるでしょう。
(聞き手・笹本なつる)
《国立国際美術館》 大阪市北区中之島4の2の55(☎06・6447・4680)。午前10時~午後5時、金土は~午後8時(入場は30分前まで)。原則月休み。コレクション展430円。
![]() 主任研究員 正路佐知子さん しょうじ・さちこ 岡山県出身。お茶の水女子大学大学院修了。福岡市美術館の学芸員を経て、2023年から現職。 |