ほしいも生産量で全国一を誇る茨城県では、100種類ものほしいもが誕生しています。美味しいほしいもは、どのようにできるのでしょうか。茨城県内の観光大使などをへて茨城の魅力を各地に伝える「旅するカナフキン」が、ほしいも加工会社を訪れ、新ブランド「カナフキンの旅するほしいも」作りにチャレンジしました。
広告会社に勤務し、地方自治体のPRを担当。色々な地域の魅力を知りたい、茨城と全国をつないでいきたいと、2022年4月に会社を辞め旅人になると決意。旅先での出会いや発見を発信する「カナフキン」として旅を続けています。
https://www.instagram.com/kanafukin82?igsh=MXNiMWVud20waDZmdQ==
◆ほしいも向けさつまいも、倉庫で熟成
カナフキンが「弟子入り」するのは、ひたちなか市のほしいも生産加工会社「安物産」です。オリジナルブランド「西野さんのほしいも」で知られ、東京・銀座にある茨城県アンテナショップ「IBARAKI sense」で「ほしいも部門」の売り上げNo.1を獲得したこともあるフロントランナーの生産者です。
西野さんのほしいも=西野さん提供
安物産の西野琢哉さん(35)によると、「西野さんのほしいも」では、まず「さつまいも」そのもののクオリティーが問われます。
《西野さんが語る「ほしいも向けのさつまいも」》
1 土作り
ほしいもづくりは、土づくりが大切。長年の研究から、ほしいも用さつまいもの育成に最適な、独自にブレンドした堆肥を使います
2 芋の生育
芋苗を育てる水から苗の植え方まで、大ぶりで形が良く成育するように基準を設けています。畑の管理にも手を抜かず、除草や病害虫対策をコツコツと続けます
3 収穫・芋の保管
収穫したさつまいもは、甘みやしっとりとした食感を引き出すために湿度と温度を管理した倉庫で1カ月ほど保管・熟成させます。でんぷんが糖化し、甘みや旨みが凝縮されます
安物産で生育するさつまいもは、「紅はるか」を品種改良した「金上黄金」(かねあげこがね)。紅はるかよりもさらに甘めで、さつまいもの身の黄金色が明るく感じられるオリジナル品種です。
カナフキンの実家は農家です。水はけがよく、さつまいも作りに適した土壌で「紅はるか」をつくっています。1.5ヘクタールの畑で、年約2.5トンを生産してきました。70年以上さつまいも作りに努めてきた祖父は、いまも現役の農家です。
収穫するカナフキン。左はカナフキンの祖父
これまでも「カナフキン家のさつまいも」は、安物産に出荷し、青果として首都圏などに流通してきました。今回のほしいも作りチャレンジにむけて、昨秋収穫された「紅はるか」のうち500キロほどを安物産で保管してもらっていました。この保管方法がポイントで、「カナフキン家のさつまいも」は、2週間ほど温度・湿度管理された倉庫で熟成されてきました。「倉庫での熟成時期や期間は、栽培された環境やいもの形状などから見極めます」(西野さん)。
◆蒸したて熱々の作業
安物産のほしいも製造は、さつまいも作りに輪をかけて、緻密な工程をへることになります。
《西野さんが語る「ほしいもができるまで」》
1 糖度検査
収穫して熟成したさつまいもは、加工する前に糖度検査をします。一定数値以上のさつまいものみを選別し、専用の機械でしっかりと洗浄します
2 蒸かし
洗浄したさつまいもは、蒸かし機でじっくりと時間をかけて蒸かします。蒸かし作業はほしいもの食感に大きく影響するため、熟練スタッフが厳格な温度・時間管理をします
3 皮むき・裁断
蒸かしたてのさつまいもは熱いうちに厚めに皮をむき、丸干しや平干しなどそれぞれの形に整えます。熱々のさつまいもはとても柔らかく、形が崩れやすいため技術が必要です
4 天日干し
裁断されたさつまいもを干し台に並べます。茨城特有の冬季の長い晴天とミネラルをたっぷりと含んだ潮風を浴びて、甘みやミネラルが凝縮され、美しい色合いに変化します
さあ、いよいよカナフキンがほしいも作りに挑戦です。
「カナフキン家のさつまいも」は倉庫での熟成をへて、西野さんが求める糖度に達していました。サイズをみながら同じ大きさの紅はるかをコンテナにつめて、蒸かし機に移します。大きさが異なるさつまいもを一緒に入れると、蒸し具合にムラが出てしまいます。蒸し方がよくないと、ほしいもに固い繊維や筋が残ってしまうそうです。
蒸す工程は、高いスキルを持つ安物産のスタッフに担ってもらいました。さつまいも200キロを一度に蒸すことができる機械で約1時間。蒸気がかすむなか、赤みを増したさつまいもが目の前に広がります。
ここからは時間の勝負。手早く皮をはいでいきます。この皮むきは、手作業です。冷めると皮をむきにくくなり、黒ずみ成分も出てきてしまいます。でも、焦って形を整えようとすると、柔らかくなったいもはつぶれてしまいます。
カナフキンのほしいも作り
目の前のさつまいもは輝くような黄金色。「とてもきれいな色で良いおいも!」。安物産で10年以上ほしいも加工に携わっているベテラン職人から声をかけてもらいました。さつまいも1本を数十秒ほどで素早く皮をむいていく職人に混じり、カナフキンも何度もナイフでいもの表面を整えていきます。「おいものお色直しだね」。そんな言葉に励まされながら、ていねいに加工作業を進めました。
「お色直し」を終えたさつまいもは、ピアノ線が複数並んだ機械に通すと、きれいにスライスされます。1枚1枚を丁寧にはがし、すだれのうえに並べていきます。このあと、乾燥機に入れて乾かしていきます。さらに、天日干しをすると、甘さとしっとり感があるほしいもができあがります。
天日干しの意味について、西野さんはこう語ります。「茨城の海風のもとで干すと、乾きすぎのほしいもにしっとり感が戻り、乾きが甘いほしいもは良い具合に乾くんです。ひたちなか市ならではのブランド化にもつながっていると思います」
本当においしいほしいもは、さつまいもの栽培から保存、育成環境にそった温度管理、そして加工の流れでの微妙な力加減など、きめ細かいハードルを乗り越えています。1キロのさつまいもからできるほしいもは200グラム。上品な甘さが濃縮されていると改めて感じました。
今回完成した「カナフキンの旅するほしいも」は、西野さんのほしいも加工技術を最大限いかし、カナフキンの想いも込めて仕上げた一品です。手間ひまかけた製法により、自然な甘みと食感のバランスが絶妙です。全国の方々にお届けしていきたいと思っています。
カナフキンと西野さん
【販売】カナフキンがママを務める「旅するスナック」などでも販売予定(詳しくはInstagramで告知予定)
◆ほしいも作りに最適の環境
ここで、ちょっとだけ茨城のほしいも作りの歴史を紹介します。
ひたちなか市にある堀出神社は、地元では「ほしいも神社」とも呼ばれています。境内には、この地でほしいも作りを始めたという小池吉兵衛の胸像が置かれ、小池吉兵衛ら5人が神様としてまつられています。ほしいものルーツは静岡県とされていますが、1908年ごろに茨城に作り方が伝えられ 、本格的にほしいも作りが始まりました。
いまや茨城県は、全国の生産量の9割をしめるようになっています。ほしいも作りには冬場の乾燥が欠かせませんが、冬の気温や湿度が低く、海風が吹き込む環境が最適なためです。ほしいも作りの技術が磨かれ、近年は若い女性農家が誕生するなど新たな動きも出始めています。
さらに、ほしいもの品質を高く保とうと、茨城県が糖度や水分率などの基準を満たすほしいもを県認証ブランドに認定する制度をつくっています。1月10日をほしいもの日に制定して、ほしいもの普及に力を入れています。
ガンバレルーヤが登場した茨城県のPRイベント
茨城のほしいもの食文化を、おいしいほしいもを味わいながら知ってもらえれば。そんな思いから今回、「カナフキンの旅するほしいも」づくりに挑戦してみました。旅先で出会う人たちにお届けし、ほしいもを通じて茨城と全国をつないでいきます。
★クイズに正解された方のなかから「カナフキンの旅するほしいも」を3人にプレゼントします。
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