読んでたのしい、当たってうれしい。

野々村友紀子さん
洋食スエヒロ A定食 ハンバーグ&エビフライ

 寡黙な父と2人で幸せな時間を過ごした思い出の味です。大阪の天神橋筋商店街近くの洋食店で、当時の実家から歩いて10分。父は行き帰りはもちろん、店に着いても話さないんです。オーダーも勝手に「A定食とコーンスープとビフテキと瓶ビール」って頼んでしまう。どこでも背広を着て出かけた父とカウンターに並んで座って、シェフが肉をこね、ピカピカに磨かれたキッチンでハンバーグを焼いているのを、黙って見ているのが幸せでした。

 子ども心にも「デミグラスソースやドレッシングがさっぱりしてるなぁ」と感じていましたが、すべてお店で手作りだからなんですね。なんと言ってもエビフライが大きい。衣は薄くカリッと、タルタルソースをたっぷり付けて。今もエビフライが大好きなのはこの店のおかげです。小学生の頃は小食で、他では残すことも多かったのにペロリと平らげていました。父は一言も話さず、ビールにビフテキを食べていました。

 「おまえが大切だ」と父から直接言われたことはありませんでしたが、いつも愛情を感じていました。A定食とコーンスープも、私の大好きな味だとよくわかっていたんですね。5年前に建て替えて新しくなったお店に母や家族と訪れたいと思います。

(聞き手・丸山実木)

 ◆大阪市北区天神橋6の6の12(☎06・4397・4177)。1600円、コーンスープカップ330円。午前11時~午後3時、5時~9時(ラストオーダーは各30分前まで)。水曜休み。


 ののむら・ゆきこ 放送作家。1974年生まれ、大阪府出身。芸人として活動後に転身。現在は吉本総合芸能学院(NSC)東京校講師、書籍・脚本の執筆に加え、メディア出演など多方面で活躍。夫はお笑いコンビ「2丁拳銃」の川谷修士。

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