「空海の風景」は、来年で初版刊行から50年を迎えます。司馬遼太郎が50歳の頃に取りかかった作品ですし、今年は空海生誕1250年の年ということもあり、企画展のテーマにしました。
空海最初の著作「三教指帰(さんごうしいき)」や、空海の没後、弟子が晩年の言行をまとめた「御遺告(ごゆいごう)」。それらのこされたものから浮かんでくる思想や身辺、時代相などを筆者の風景とすることで、巨大な存在感の実体に迫ったのが「空海の風景」です。
中公文庫に収録された長編小説です。難解な密教の世界観が織り込まれていることもあり、文章では理解できますが、展示をするとなると難しい。そこで企画展では空海の足跡を地図に描き、壁面いっぱいに貼り出しました。いわば、その人生をビジュアルに展開しました。
774年、讃岐で生まれた空海は長じて都の大学に入りますが、仏教に傾倒して退学します。私度僧となって修行を重ね、密教をきわめようと遣唐使となり、命がけの船旅を経て唐の都、長安へ渡ります。その天才性を認められ、留学生でありながら正統密教を受け継ぎ、真言宗の開祖となります。帰国後は天台宗の開祖、最澄とも交流し、やがて高野山を開きます。
空海が最澄に送った書状3通をまとめた「風信帖(ふうしんじょう)」や、空海の生涯をあらわした絵巻「高野大師行状図画」(いずれも複製)も展示しています。万年筆でつづられ、推敲(すいこう)の跡がわかる「空海の風景」の自筆原稿のほか、書斎にのこされた「弘法大師全集」も公開。この全集は「空海の風景」の連載を始める前、「坂の上の雲」を書いていた頃に読み、執筆の緊張感から癒やされたそうです。
空海において、ごくばく然と天才の成立ということを考えている、と書いた司馬遼太郎がどう空海に迫ったか。この展示もまた作品の「風景」として見て下されば幸いです。
(聞き手・木元健二)
《司馬遼太郎記念館》 大阪府東大阪市下小阪3丁目(☎06・6726・3860)。午前10時~午後5時(入館は30分前まで)。800円。企画展「司馬遼太郎『空海の風景』」は来年4月20日まで。[月]([祝][休]の場合は翌日)、年末年始休み。
館長・上村洋行さん
うえむら・ようこう 1943年、大阪府生まれ。産経新聞大阪本社編集局次長などを経て、2001年から現職。司馬遼太郎の義弟。
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