大正天皇の皇太子時代のお住まいとして建てられた当館は、日本で唯一のネオ・バロック様式の宮殿建築。国宝に指定されています。1909年の創建は、世界の西洋宮殿建築の長い歴史の中でも最後期。設計者の片山東熊が欧州で学んだ、16世紀のアンリ2世様式や19世紀のアンピール様式を採り入れた部屋もあり、一種の集大成と言えるかもしれません。屋根に鎧武者の阿吽の銅像が据えられるなど、各所に和の要素が見られるのも非常に面白いところです。
舞踏室と呼ばれた「羽衣の間」の天井画は、天女が漁師から羽衣を返してもらうために踊る「羽衣」の謡曲を題材に、仏人画家が描きました。四方の香炉から、大空に煙が立ち上りますが、肝心の天女の姿がありません。実は「ここで踊るあなたが天女」という趣向なんです。フランス製のシャンデリアは、クリスタルガラスを中心に約7千個のパーツが使われた大変豪華なもの。迎賓館一、いえ日本一と言っても過言ではないでしょう。
建物の外壁には花崗岩が使われていますが、公式晩餐会が開かれる「花鳥の間」は木調の重厚な雰囲気。狩猟の様子を描いた西陣織、草花や鳥獣の絵が飾られます。壁面を彩る七宝焼の花鳥画30枚は渡辺省亭が下絵を手がけ、濤川惣助が焼成しました。非常に難しい無線七宝の技法で、ぼかしを生かした表現が可能になっています。
時節柄、海外に行きづらい中で、日本にいながら西洋を味わえるのが迎賓館。ぜひ今知っていただきたい場所です。
(聞き手・中村さやか)
《迎賓館赤坂離宮》 東京都港区元赤坂2の1の1(問い合わせは03・3478・1111)。
本館・庭園は午前10時~午後5時(入館は1時間前まで)。
1500円。
原則(水)休み(不定休あり)。
27日~9月1日、通常非公開の東の間やサロンなどを見学できる「プレミアムガイドツアー」(要予約・抽選、5千円)を実施。
館長 日下正周 くさか・まさちか 内閣府大臣官房政府広報室長などを経て2019年から現職。各国要人の接遇、催しの企画、館の維持管理を行う。 |