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【SP】NYで、演歌を歌った
演歌歌手神野美伽さん インタビュー

 「演歌というジャンルに危機感を抱いた」。そう語るのは、演歌界で40年を越えるキャリアを誇る歌手・神野美伽さん(58)です。様々なジャズライブやロックフェスに参加し、演歌の枠を越えて活躍しています。4月にリリースした最新アルバム「SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE」は、NHK連続テレビ小説「ブギウギ」のモデルでブギの女王とも評される笠置シヅ子(1914~1985)が歌った名曲と、彼女の才能を見いだした作曲家・服部良一(1907~1993)のメロディーを収録しています。「東京ブギウギ~♪」力強く楽しげな神野さんの歌声が流れると、思わず足がリズムを取り出します。心なしかこの原稿を書く手も軽やかに、キーボードの上を踊っているような気が……。海外での挑戦や、演歌界への思いを語っていただきました。(聞き手・田中沙織)

※神野美伽さんは6月13日の朝日新聞夕刊「グッとグルメ」に登場しました。

 

イラスト

 プロフィール
 ●1965年生まれ、大阪府貝塚市出身。テレビの子ども向け歌番組に出てスカウトされる。
 ●84年 18歳で歌手デビュー。
 ●87年 NHK紅白歌合戦に初出場。
 ●99年 韓国で歌手デビュー。
 ●2014年 ニューヨークのライブハウスで初めて歌う。
 ●15年 名古屋ブルーノートで初ライブ。
 ●16年 ロックフェス「オハラ☆ブレイク」に初出演。
 ●19年 「ブギの女王」笠置シヅ子の歩みを描く演劇「SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE~ハイヒールとつけまつげ~」に笠置役で出演。

 

ーー演歌歌手デビューしたのが18歳。その15年後に韓国でビューしますね。

 日本で約10年以上歌っていた当時の私は、「韓国でも仕事できますよ」と、生意気にも周囲の大人の皆さんに言ったんです。東京から福岡に行くのと同じくらいの感覚の距離にある、隣国。「私が韓国語さえ話すことができれば、絶対に仕事になる」とか言って、周囲の大人を焚き付けちゃったのね。それで、現地の会社とも契約しました。自分がやりたいことだから、仕事の会話ができるくらいに言葉も話せるようになるわけです。
 その経験があったから、ニューヨークへのハードルも高くは感じませんでした。

 ▼「만개」MIKA SHINNO 神野美伽/満開 【Official Korean MV Short Ver.】
https://www.youtube.com/watch?v=OWRjvaSrhfI

 

演歌を日本ではないところで

 

ーー2014年にニューヨークに向かったきっかけは、演歌界への危機感だったそうですね。

 自分の演歌ステージを振り返ったとき、私と同世代の方がいらっしゃらなかった。そのことに、強い危機感を抱きました。

 大変にありがたいことというのはもちろんですが、ステージを見に来てくださるお客様は60代後半~お元気な90代の方々です。自分と同世代がいない。
 そして、作品の作り方やパフォーマンスの場所、演歌を届けている先はどこなのか……、そう考えたとき、何かが違うと思いました。私は、演歌はもっとかっこいい音楽だと思っているのに。演歌は、「クール」な要素が詰まったものなんです。

 そこで、演歌を日本ではないところに持って行った方が、違った評価をしてもらえるはずだと思いました。無鉄砲っちゃ無鉄砲ですが、ニューヨークに行くことを決めました。

 

ーーなぜニューヨークを選んだんですか。

 全世界に行くのは難しいので、いろんな人種の人が集まる場所で歌おうと思いました。アメリカで成功することを夢見て行ったわけではなく、私がずっと歌ってきた演歌(日本の歌)が「クール」だということを、日本に対してフィードバックしたかったんです。そうすれば、客席に座ってくださるお客様ももっと多様になると思ったんです。

 

ーージャズクラブでも歌われたそうですね。

 ニューヨークという場所もあって、ジャズの世界の人たちとの出会いがたくさんありました。今回リリースしたアルバム「SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE」にも繫がりますね。
 現地で歌うなかで、自分が他の人よりもできることを考えたとき、それは「演歌を歌える」ということでした。誰かと戦うわけではないけれど、一番の武器だと思えました。「演歌を歌えることは、個性だ」というところに行き着いたんです。

 

ーー海外での経験を経て、今やりたいことは何ですか。

 民謡も含めて、様々なジャンルとの融合で新しい自分の世界を作っていくということに、一番興味があります。でも多くの歌手が「演歌」というくくりにカテゴライズされちゃっているのが現状です。しかし我々は音楽が好きで、歌手は歌を歌い、ミュージシャンも楽器を手にするわけですから、もっと混じり合うことで面白い世界ができるかもしれません。
 私は私に残された時間で、やりたいことをやりたいと思っています。

 

ーー「やりたいことをやる」という本質は昔から変わらないのでしょうか。

 実は演歌界への危機感は、10年前に初めて気づいたわけではないんです。デビューした当時、私は10代。どこに行くにも、一生懸命応援してくださって見に来てくださるファンの方たちがいらっしゃいました。その方たちは当時30代だったりするわけですが、私が年齢を重ねるのと同じように、皆さんも当然60代~80代になられるわけです。
 そして、演歌はカラオケ文化にも深く根付いていますが、当時から「カラオケで歌っていただくためだけに新曲を生み出す」という一部の流れにも、危機感を抱いていました。

 「自分が歌いたいものを作って欲しい」という思いは、当時の若い私なりの最大の抵抗だったんです。そして、その状況を楽しんでいた。自分が一番楽しくいられる場所で歌を歌うべきだと、当時から思っていました。
 私は演歌が大好きです。演歌を歌う場所も、大事にしていきたい。しかし「そこ」だけで生きているのは、私にとって良くないと思っています。演歌もめいっぱい歌うけれど、私にとって「そうじゃない場所」も、もっと必要だと思うんです。

 

ーー同世代の歌手も同じように考えられているんでしょうか。

 聞いてみたいですね……。歌手同士って、こういう話をする機会が少ないし、みんなが何を考えているのかわからない部分もあります。でも私はこれまでの経験を聞かれると、私が知っていることは全て話します。「まずはやってみて! 自分がやりたいと思うことをやればいい。間違っていたと思えば、やめればいいだけの話」って言う。
 みなさん、すばらしい演歌歌手なんです。

 

アカペラで歌うほど自由なものはない

 

ーー今、演歌界で活躍する10代や20代の歌手の皆さんも大勢います。私と同じ20代として、どのような気持ちで演歌界への道をたどってこられたのかが、いつも気になるんです。

 同感です。
 演歌界に入った40年前、私には夢がありました。やっぱり、自分の意思ってすごく大事だと思います。どういう歌を歌っていきたいのか、どんな場所でどんな人たちと一緒に歩んでいきたいのかを自分自身が理解しておく必要があると思うんです。

 そして私は、アカペラで歌うほど自由で楽しいものはないと思っています。自分の体の中から出る感覚だけで歌うのです。同じ演歌も、ジャズやラテンっぽかったり、あえて違うリズムで歌うことも、いくらでもできます。

 

ーーイメージとしては、お立ち台に立って手拍子だけで歌う……とかでしょうか。

 そうですね。私はその感覚だから、何も怖くない。

 私の考えはもしかしたら古いかもしれませんが、先輩たちはもっとそれが色濃かった。
 しかし今、アカペラで歌うことを怖がる後輩もいます。「カラオケで歌う」という枠から飛び出すことを恐れてしまうんです。
 たとえばニューヨーク行って、あえてカラオケで歌うライブをしますか? 地下鉄の階段で演歌をアカペラで歌うのがかっこいい、という価値観の世界です。

 この感覚は、同じプロの歌手でも人それぞれ。若い皆さんが、演歌を自分の最も大きな強み、個性として、自由に自分自身の世界を作っていってくれたらいいなと思います。事務所やレコード会社など、いろんな環境があってこその、私たち歌い手です。そんななかで、どういう人と出会えているかもポイントの一つだと思います。
 私は、こんなに自由でいさせてくれる人たちと出会えてきたんですよ、ずっとね。

 それは、当初所属した事務所の先輩たちがたくさんのすばらしいものを残してくれたおかげでもあります。西城秀樹さんや、幼い頃から憧れた岩崎宏美さんとかね。もう、大感謝です。時代の波も良かったのかもしれませんね。

 でも今の若い歌手の皆さんも、「自分はこんな歌の世界に行きたいんだ」というイメージを、夢を、持ってほしい。自分の意思がないと、周囲の人は動いてくれません。自らが熱くなって、エネルギーを抱くんです。

 

ーー熱くなってエネルギーを抱く……私も心に刺さりました。

 「演歌界の10代や20代のみんなは、どんなことを考えてんねやろ……」って思ってくれている人がいて、私も嬉しかったです。
 せっかく、歌手になれたんです。この業界で生きていこうと思えるなんて、すごいことだと思います。こんな私も、歌を歌って40年生きてきましたが。

 

ブギの女王を歌う

 

――新たなアルバム「SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE」は、ブギの女王とも評される笠置シヅ子が歌った名曲と、作曲家・服部良一のメロディーを収録しています。アルバムに込めたメッセージをお聞かせください。

 朝ドラをご覧になっていらした方は、なんとなく、笠置さんが残した歌のことをご存じだと思いますが、それを知らずにお聞きになる方もいらっしゃると思います。それでも、このCD一枚聞いてくださるだけで、私やミュージシャンのみんなが楽しんでいることをおわかりいただけるでしょう。音楽のすばらしさの全部が、詰まっています。
 「喜び」「幸せ」、そういうものを感じていただけるのではないでしょうか。

 音楽って、すごいと思います。笠置さんが生きていた時代は、生きるか死ぬかの時代です。今日こうやって話していた人が明日死んでもおかしくない戦争の時代に、音楽が求められていたんです。

 今は、平和じゃないのに平和だと感じているような時代というのでしょうか。それはとても危険だと思うけれど、そんな中でも、本当にエネルギーのある音楽っていうものの熱を感じていただけると嬉しいです。

 

 ▼神野美伽『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』ティザー
https://www.youtube.com/watch?v=3VK8o4fyy0E

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