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私の描くグッとムービー

西淑さん(イラストレーター)
「エレニの旅」(2004年)

神話のような情景と女性の生き様

西淑さん(イラストレーター)「エレニの旅」(2004年)

 絵を仕事にしたくてスクールに通うために福岡から京都へ引っ越し、色々な作品に触れたいと思っていた10年以上前に初めて見ました。どの場面も圧倒的に美しかったことに衝撃を受けて、その後再上映されると映画館へ足を運び、DVDも買って何度も見ています。

 ロシア革命で難民になり、戦争、内戦と続く激動の時代を生きるギリシャ人女性エレニの人生を描いた物語。両親を失い、養父の息子との間に双子を隠れて産むけれど、養父の後妻にされそうになって駆け落ちをします。低い彩度の色づかい、神話のような情景。悲劇だけどひかれて見られたのは、映像の美しさからでしょう。

 川のほとりから始まり、川を渡る筏、水没する村など、水の風景が繰り返し出てきます。なかでも、牢獄から釈放されたエレニが息子のいる廃屋に向かって船をこぎ出すところが印象的。絵はそのシーンを描きました。時代に翻弄され続けた彼女が、初めて自分の力で動く姿を見た気がしました。彼女の姿には、当時を生きた様々な女性の姿が重なります。何度も見るなかで時代的背景もわかってきて、この時代を生きた人や今も紛争地に生きる人に思いをはせることができます。見るたびに感じ方も変わる大切な作品です。

 この作品は、3部作の1作目。3作目を撮影中に監督が亡くなり、監督が描きたかったものは見られないけれど、作品を繰り返し見ることで自分が何を感じ、考えるかは深められる。自分の絵を見た人も、何を感じるかを探ってくれたらいいなと思います。

(聞き手・伊藤めぐみ)

 

  監督・脚本=テオ・アンゲロプロス
  製作=ギリシャ・仏・伊・独
  出演=アレクサンドラ・アイディニほか
にし・しゅく
 1983年、福岡県生まれ。雑誌や広告などのイラストを手がける。作品集「Shuku Nishi WORKS」(ELVIS PRESS)を発売中。
(2021年2月5日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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