「独裁者」(1940年) もし、チャプリンが今の世界を映画にしたら……。
初めて見たのは、ぶらりと入った都内の名画座でした。銀座、池袋、三鷹、高田馬場などたくさんの名画座があってね。
当時は30代前半でアングラ劇団の劇団員。朝は築地市場でアルバイトして、午後から稽古という日々でした。夜は仲間と演劇論や芸術論を交わす。映画はゴダールやトリュフォーが人気で、「ジョン・フォードがいい」なんて、口が裂けても言えない雰囲気でしたね。「お前は分かっていない!」って説教くらいますから(笑)。
でも、「こういうのもいいなぁ」って思えたんですよ。物語に隙が無くて、会話が粋。生まれ故郷のアイルランドの村に戻ってきたショーンが、橋のたもとから荒れ果てた生家をながめる。いっしょにいた馬車の御者フリンが「うちに泊まっていいぞ」と言葉をかける。ショーンがやんわりと断ると、「仲間と悪だくみでもするかな」とニヤリと笑って去っていく。「悪だくみ」は「独立闘争」のことでしょう。優しさと、アイルランドが置かれていた社会情勢もさりげなく入っている。
ジョン・フォードの作品はマッチョなイメージだったけど、実際見たら違ったね。自分の目で見て、自分で見極めないとダメだと思った。どこか背伸びしていましたからね。
それから巨匠と呼ばれていた人の映画を集中的に見ましたよ。娯楽映画も、ドキュメンタリー映画も。映画の幅が広がり、今の仕事につながっています。でも、劇団の怖い先輩たちに「ジョン・フォードもいいですよ」とは、最後まで言い出せなかったですね(笑)。
(聞き手・阿部毅)
監督=ジョン・フォード 製作国=米 出演=ジョン・ウェイン、モーリン・オハラ、バリー・フィッツジェラルドほか こばやし・さんしろう 映画製作・配給会社代表 1958年、新潟県生まれ。2006年に「太秦」を設立。アジア近現代史をテーマにした作品を多数製作・配給している。 |