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私の描くグッとムービー

とつかみさこさん(イラストレーター)
「メタモルフォーゼの縁側」(2022年)

「好き」を世に 怖くても大事な体験

 女子高校生・うららは、男性同士の恋愛を描くBL(ボーイズラブ)作品が好きです。彼女はそのことを周囲に話せずにいましたが、70代の女性・雪との出会いをきっかけに、自らも漫画を描くようになります。

 うららが、同人誌の即売会で自分の漫画を売ろうと決めて描いてみるも、あまりの実力不足にがくぜんとするシーンがあります。私もイベントに出る時は、周囲と比較してナーバスになりますが、最終的には「今できることをやろう」と思い直します。私が描きたいものは、私が心から好きだと思えるもの。数字や周りの反応も大事ですが、その土台がぶれていないことが重要なんです。

 憧れの作家のサイン会に行った雪は、その作家がうららの作品を読んでくれたことを知ります。後から来たうららにそのことを伝えるも、彼女は、今はいったん描いてもらったサインを見せ合おうと提案します。私は好きなことを始めると、大なり小なりミラクルが起きるのは必然だと思うんです。でもそれだけではなく、今目の前にいる人とどんな風に過ごすのか、その大切さを伝えてくれるシーンなので、すごく好きです。

 この映画を見ていると、初めてイベントに出た時、緊張から行きの電車で吐きそうになったことを思い出します。自分の「好き」を世の中に出すことはすごく恥ずかしくて怖いこと。でも、その感覚を味わわなければならないと思うんです。そういう体験を自分にさせてあげることが、自分を大事にしてあげることだと思うので。

(聞き手・斉藤梨佳)

 

 
 監督=狩山俊輔

 脚本=岡田惠和

 原作=「メタモルフォーゼの縁側」(鶴谷香央理)    

 出演=芦田愛菜、宮本信子、高橋恭平ほか

 

  1996年生まれ。埼玉県出身。雑誌の挿絵などで活躍。静岡県警職員募集のパンフレットやポスターのイラストも手がけた。 

 インスタグラムアカウント
 https://www.instagram.com/pkpk_m03/

 

(2025年4月11日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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