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韓国でミュージアムグッズが人気 BTSのおかげも

韓国で最近、「ミュッズ」という言葉をよく聞く。ミュージアムグッズの略で、特に国立博物館はMU:DS(ミュッズ)というブランド化に成功し、昨年の売り上げはなんと213億ウォン(約21億8千万円)、過去5年間で5倍伸びた。人気に火を付けたのはBTSだった。

ソウルの国立中央博物館に「思惟(しゆい)空間」という半跏思惟(はんかしゆい)像2体を展示した部屋がある。暗がりの中で2体がスポットライトを浴び、幻想的な空間となっている。日本では京都・広隆寺の弥勒菩薩半跏思惟像が国宝第一号として知られるが、韓国でも思惟空間の仏像は仏教美術の最高峰とされている。この像のミニチュアをBTSメンバーのRMが買ってSNSに公開し、国立博物館のミュッズが世界に広まるきっかけとなった。

 

国立中央博物館の思惟空間 

 

半跏思惟像のミニチュアは国立博物館文化財団が企画したもので、2020年に発売された。多彩なカラーの中でも特にパステルカラーが人気だ。文化財団のチョン・ヨンソク社長は「コロナ禍、博物館は休館せざるを得ず、オンラインに力を入れたことが、結果的にミュッズの認知度を高めるきっかけとなった」と振り返る。近年はオンラインの売り上げが急増し、海外からも購入できるようにした。

国立中央博物館の来館者数は2023年に年間418万人を超え、過去最多を記録した。世界のミュージアムで6位の多さだ。近ごろは特に若者と外国人観光客の来館が増えているという。これもBTSの影響が挙げられる。2020年、YouTubeが企画したBTSの「DEAR CLASS OF 2020」のロケ地だからだ。BTSはコロナで卒業式が挙げられなかった世界のファンに向け、卒業祝いのメッセージを述べて歌とダンスを披露するオンライン卒業式を国立中央博物館から生中継した。博物館はBTSの聖地となって巡礼に来るファンも多い。

 

BTSの歌「Mikrokosmos」の歌詞がつづられたミュージアムグッズ=国立博物館文化財団提供

 

さらに国立博物館文化財団は2024年、BTSが所属するHYBEとコラボのミュッズを発売した。国宝級の文化財をモチーフにBTSのロゴや歌詞を刻印した商品で、期間限定で販売された。今年はスターバックスと提携したミュッズを発売するなど、今後もコラボ商品を積極的に企画、販売するという。

ミュッズの大ヒット商品の一つは、1700年代中頃から1800年代の前期に活動した画家、金弘道(キム・ホンド)の作品が描かれたソジュ(韓国焼酎)のグラスで、冷たい液体を注ぐと描かれた酔客の顔が赤く染まる。一般の公募から選ばれて商品化されたもので、2023年12月の発売から7万個が売れた。

 

 ソジュ(韓国焼酎)のグラス=国立博物館文化財団提供

 

これら文化財をモチーフに新たなアイデアで商品化したミュッズを購入しているのは、20~30代が多いという。近年、若者のデート先としてミュージアムが人気だ。特に国立中央博物館は入館料が無料で、館内で写真を撮るのも基本的に自由なので、気軽に足を運んで写真をSNSにアップする若者が多く、自然と宣伝になっている。思惟空間でも半跏思惟像と一緒に写真を撮るカップルの姿があった。

4月13日に開幕する大阪・関西万博の会場でも、韓国のナショナルデー(5月13日)から16日まで、韓国国立博物館のミュッズが「韓国優秀商品展」で展示される。

 

成川彩(なりかわ・あや)

韓国在住文化系ライター。朝日新聞記者として9年間、文化を中心に取材。2017年からソウルの大学院へ留学し、韓国映画を学びつつ、日韓の様々なメディアで執筆。2023年「韓国映画・ドラマのなぜ?」(筑摩書房)を出版。新著にエッセー「映画に導かれて暮らす韓国——違いを見つめ、楽しむ50のエッセイ」(クオン)。

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