読んでたのしい、当たってうれしい。

美博ノート

繭の傳説

大垣市守屋多々志美術館 「絵で読む昔話」

1994年、四曲一隻屏風、紙本着色、大垣市守屋多々志美術館蔵

 果てしなく続く砂漠を進む隊列。ラクダに乗り、後ろを振り返る女性はどこか不安そうだ。
 本作の題材は、中国の僧・三蔵法師による西域インド旅行記「大唐西域記」にも記された伝説。シルクロードの中継地、タクラマカン砂漠の南にある国の王が、東国から嫁いでくる王女に、門外不出の養蚕技術を教えるよう頼む。王女は蚕を隠し持って嫁ぎ、養蚕を伝えたという。
 後方からの追っ手を気にする王女に対し、ラクダはすまし顔。「ユーモラスにも見えるが、確かな観察眼で描かれている」と、大垣市守屋多々志美術館学芸員の川瀬邦聡さん。守屋は第2次大戦中、中国で馬やラクダの輸送を経験した。まつ毛が長く、鼻の穴を閉じることができるラクダの特徴が忠実に描写され、「ラクダの表情、砂漠の明るい色調には、嫁いでいく王女への守屋の優しさも感じられる」と、川瀬さんはみる。

(記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

美博ノートの新着記事

  • CommemorationI,II/祝I,II 画廊創業者トールマン夫妻の銀婚式を祝って制作された大型の肉筆作品。二つ並んだ縦長の画面。

  • 生田敦盛 穏やかな表情で子を見つめる平敦盛の姿は、今にも消え入りそうだ。

  • 桃太郎/金太郎 歴史画家として知られる守屋多々志は、古今東西の物語や伝説をもとにした作品も多く残した。

  • 帯留「葡萄」 「養殖真珠ならではの統一性という特徴を生かした洗練されたデザイン」

新着コラム