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美博ノート

静物

一宮市三岸節子記念美術館「中谷ミユキ展 語り合う静物」

油彩・キャンバス 59.0×71.0センチ 1974年 個人蔵

 絵の具を厚く盛り上げて描かれた、果物や器。その輪郭はあいまいで、カラフルな背景に溶け込んでいるかのようだ。
 洋画家の中谷ミユキ(1900~77)は50年代後半以降、花や果物の静物画を中心に独自の画風を確立した。「光を放つような色彩、きらめく画面が特徴」と、学芸員の野田路子さんは説明する。
 光風会や十一会など所属団体の影響も受け、初期の写実的な静物画から空間に溶け込む抽象的な表現へと転換した。
 40年以上にわたり静物画と向き合ってきた中谷は晩年、雑誌のエッセーにこう記した。
 「いくつかの花と花、又いくつかの果物と果物が、互いに画面で語り合ってくれない時はひどく寂しい。そして、そんな時の寂しい心を扱いかねて、寝つかれない夜が幾度あったろうか」
 野田さんは話す。「もの言わぬ静物たちの声を聞くことができる人だったのだろう」

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