読んでたのしい、当たってうれしい。

美博ノート

生田敦盛

大垣市守屋多々志美術館 「絵で読む昔話」

 本作の題材は、源平合戦に想を得た謡曲「生田敦盛」。右側に描かれた若武者は一ノ谷の戦で討たれ、16歳で亡くなった平敦盛だ。僧侶のひざで手を合わせる子どもは、敦盛の遺児。夢のお告げを受けて源平合戦の古戦場・生田の森(現在の神戸市生田神社境内)に赴き、亡き父とつかの間の再会を果たす。
 穏やかな表情で子を見つめる敦盛の姿は、今にも消え入りそうだ。「亡霊を表現するため薄く描かれてはいるが、敦盛の甲冑装束は若々しく華がある」と、大垣市守屋多々志美術館学芸員の川瀬邦聡さん。「守屋はかねて甲冑などの模写や研究に余念がなかった。本作の精緻な描写にも、その成果が十分に発揮されている」と解説する。
 本作を発表したのは、終戦の3年後。守屋は第2次大戦中に中国で従軍し、終戦の翌年に復員した。戦死した友人や残された家族への思いを重ね、弔いを込めて描いたという。

(記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

美博ノートの新着記事

  • CommemorationI,II/祝I,II 画廊創業者トールマン夫妻の銀婚式を祝って制作された大型の肉筆作品。二つ並んだ縦長の画面。

  • 繭の傳説 後方からの追っ手を気にする王女に対し、ラクダはすまし顔です。

  • 桃太郎/金太郎 歴史画家として知られる守屋多々志は、古今東西の物語や伝説をもとにした作品も多く残した。

  • 帯留「葡萄」 「養殖真珠ならではの統一性という特徴を生かした洗練されたデザイン」

新着コラム