神戸市中心部、明治時代から開けた一角に威風堂々の門構え。戦災も震災もくぐり抜けたイスラム寺院はどんなところ?
タマネギ形のドーム、亀甲柄の欄干に囲まれ三日月をいただく2本の塔。内部は太く白い梁と柱の曲線が目を引く。金色の装飾で縁取られたミフラーブ(メッカの方向を示すくぼみ)、高い天井から輝くシャンデリアも印象的だ。
日本初の本格的モスクとして信徒らの寄付で建てられた神戸ムスリムモスクを設計したのは現在のチェコ出身のヤン・ヨセフ・スワガー(1885~1969)。神戸ムスリムモスクに関する著書がある兵庫県立大学環境人間学部の宇高雄志教授は「世界各地を渡り歩きながら、日本でも多くの名作を設計した人物」という。
母国で土木工学を学んだスワガーはロシア革命後に渡った中国で、同郷で旧帝国ホテル建設に助手として携わったアントニン・レーモンドに出会い、1923年に来日。レーモンドの事務所で働いた後、横浜に事務所を構えた。
その後約10年でカトリック山手教会(横浜市)、カトリック豊中教会(大阪府)など宗教施設を多く手がけた。太平洋戦争前夜の41年ごろ日本を離れ、南米へ。晩年は神学を学び、84歳でアルゼンチンで死去した。
神戸ムスリムモスクの設計図は当初、施工した竹中工務店が作成したが、設計チームに招き入れられたスワガーが手直ししたと思われる。地階の礼拝室を追加、階段の位置、窓や塔のデザインなどを修正、柱と梁はより太く多くなった。宇高さんは「施主の求める空間を自在に、堅牢に作り出すことができた」と腕の確かな建築家像を描く。
特徴的な銅板ぶきドームも当初の図面にはなかった。全体が鉄筋コンクリート造りなのにドームだけ木造なのは、コストや工期を抑えるためと推測される。パキスタン出身で80年に神戸に来たモスクの特別顧問・相談役の新井アハサンさんは、「素晴らしい選択だった。形が美しく、雨漏りもしない」と称賛する。
約90年前、「国際港都にふさわしい颯爽たる姿」と地元新聞が完成を報じた神戸ムスリムモスクは、空襲も大震災も生き延びた。各地にモスクができた現在も、重要とされる金曜礼拝には約400人が訪れるという。
(千葉菜々、写真も)
DATA 設計:ヤン・ヨセフ・スワガー、竹中工務店 《最寄り駅》:三ノ宮 |
徒歩2分のコウベグロサーズ本店(☎078・221・2838)は欧米や東南アジアからの輸入食品を扱う専門店。モスクを訪れた帰りにハラールフードを買いに立ち寄るムスリムも多いという。午前10時~午後6時。無休。オンライン販売あり。