白い壁にリズミカルなストライプ。シンプル・モダンなこの建物がお寺?
和歌山市中心部の住宅街にある浄土真宗本願寺派念誓寺(ねんせいじ)は室町時代の開基。1945年の空襲で焼失し、戦後再建された本堂は物資の乏しい中での仮建築で、その建て直しが前住職・岡亮二さん(2007年に73歳で死去)の念願だった。
岡さんは、きらびやかな装飾が多い一般的な真宗寺院とは異なる建築を望んだ。「もっと簡素に、もっと簡素に、というのが父の意向でした」。父の跡を継いで住職を務める岡京子さんは話す。
門徒が車座になって念仏を称え、親鸞聖人の教えを聞く。元龍谷大学教授で浄土真宗の根本聖典「教行信証」に関する著書もある亮二さんは、そんな信仰の場の原風景をイメージしたのかもしれない、と京子さん。
設計は教え子の紹介で相田武文さん(86)に依頼した。亮二さんの意向を聞き取った相田さんが示した建物の構想に、京子さんは「まさかビルになるとは……と私も檀家(だんか)さんも最初は戸惑いました」と振り返る。
亮二さんは檀家の代表を伴って、洋風を採り入れた仏教関係の建築などを見学に行くなど説得を重ねた。「大学で若い人に接する機会も多かったので、若い人になじんでもらわなければと考えたのでしょう」
境内入り口から正面に本堂棟が立つ。高さ10㍍近い白壁に、軒瓦をストライプ状に埋め込んだ。四角く切り取られた部分は右手に本堂、左手に手洗い所があるホール。この空間を貫いて、視線は裏口まで一直線。相田さんは「見通した先に木が見える風景が美しいと思った」と、正面に大きなタイサンボクを植えた。
土足で上がれる本堂内部は天井と壁を木製のルーバーで覆い、あたたかみを出した。靴を脱いで座れるよう座面が広い椅子も相田さんが設計した。
ネットで見た海外からの見学者もいるという。京子さんは「建物に興味を持った方が仏教や浄土真宗にも触れてもらえるような仕掛けを考えていきたいです」と話す。
(中山幸穂、写真も)
DATA 設計:相田武文設計研究所(現相田土居設計) 《最寄り駅》:和歌山 |
徒歩15分の和歌山城は1585年、羽柴秀吉が弟の秀長に命じて築いたのが始まり。江戸時代には家康の10男頼宣にはじまる紀州徳川家の居城となった。敷地内には紅葉で知られる西之丸庭園や、100年以上前の大正時代に開園した動物園などがある。天守閣は410円、午前9時~午後5時半(入場は30分前まで)。