建物の中に建物。ガラス張りの外観と堅牢な石造りが共存する不思議な空間はなぜできた?
ガラス張りの入り口を入ると、見上げるような円柱が並ぶ重厚でクラシックな建物に迎えられる。スイングドアの向こうは吹き抜けの大広間。モザイクタイルが床を彩り、大理石の土台が8本の柱を支える。白しっくいの天井や、回廊の手すりなど細部にも優美な意匠が見える。
千葉市美術館にすっぽり収まり「さや堂ホール」と呼ばれるネオ・ルネサンス建築は、1927年に旧川崎銀行千葉支店として建てられた。西洋建築を本場で学んだ矢部又吉設計とみられる鉄筋コンクリート造り。45年の空襲で市中心部がほぼ焼失する中で大きな損傷を免れた。71年に市が取得、市民センターとして使用した。
存続が危ぶまれたのは、政令指定市移行を控えた89年。新設する区役所と美術館の複合施設の敷地に決まったのだ。
建物の取り壊しや一部のみの保存を危惧した市民が署名を集めて全面保存を市に陳情、日本建築学会なども要望書を提出した。当時の新聞報道によれば、市は当初「それほどの価値がない」と消極的だった姿勢を転換し、保存の可能性を探ることになった。
基本設計を委託された大谷幸夫(1924~2013)は「この建物の一部だけを切り取ったりすることは、どうしてもやりたくなかった」と建築雑誌に書き残す。新しいビルの低層部分に旧建物全体を抱え込む「鞘堂方式」を提案。旧建物を修復して残しながら、区役所と美術館が整備された。
大谷が「古い建物の保存のされ方に対する、私のささやかな異議の申し立て」とも書いた「さや堂ホール」は今、美術館の顔であり、コンサートやイベントにも使われる。広報の磯野愛さんは「近世から現代まで長い時間軸の作品を収蔵する当館にこの建物があるのは意味深いこと」と話した。
(笹本なつる、写真も)
DATA 設計:大谷幸夫 《最寄り駅》:葭川公園 千葉市美術館 |
地下1階の酒彩亭 盛(さかり)(☎080・8008・2000)は、セルフサービスの〝ちょい飲みどころ〟。1杯150円からの焼酎や、品ぞろえ豊富な千葉の地酒などを気軽に楽しめる。午後4時半~8時半。祝日を除く(月)(火)休み。