千葉県北西部の八千代市郊外。橋のような木造の長い長い建物は、高齢者施設だという。
長さ約80メートル、幅約5メートル。木材の骨組みがむき出しの細長い空間が延々と続く。
中央にデイサービス利用者が主に過ごすリビングとキッチンと図書室、南側に浴室と座敷。土地が低い分高床の北側にはカフェを開く予定のスペース。三つのユニットは分散して配置され、外壁がないテラスでつながっている。
「52間の縁側」を運営する「オールフォアワン」は千葉県内で高齢者のデイサービス事業に取り組んで20年近い。妻と2人、民家を借りて立ち上げた代表の石井英寿さん(48)は、大家族のように様々な人が介護の場に出入りする「ごちゃまぜケア」を実践してきた。「介護の枠組みを超えて、人として大切なことを追求しよう」と新施設を計画した。
知り合いの不動産業者から提案されたのが、大規模団地を見下ろす崖の縁の細長い土地。設計者として建築家の山﨑健太郎さん(47)も紹介された。
以前手がけた作品から「この仕事に合うと思われたらしい」と山﨑さん。建物について石井さんから具体的な要望はなかったが、「求めているのは『懐かしい日常の風景』と理解した」。土地の条件に合わせ、制度はなくても助け合いでカバーした「昔」を表現したのが、長く大きな「縁側」だ。
利用者や職員だけでなく、その家族や地域の人たちも開かれた縁側から気軽に入っては出ていく。介護者が高齢者に正対するのではなく「隣にいて同じ方向を見たい」という石井さんの考え方にも合うものだった。
造成中に文化財が発掘されたり木材高騰に見舞われたりして完成までに6年かかった。「困っている人やそれを何とかしようとする人が集まってきた不思議なプロジェクト。長くかかわれてよかった」と山﨑さんは振り返る。今年10月、「縁側」は今年度のグッドデザイン大賞に決まった。
(深山亜耶、写真も)
DATA 設計:山﨑健太郎デザインワークショップ 《最寄り駅》:勝田台駅からバス |
車で約5分の「道の駅やちよ」(問い合わせは047・488・6711)では地元野菜や市内の酪農家が作るアイスなどを販売する。フランス料理店「貝殻亭」の系列店「やちよ道の駅食堂」の看板メニューは麺類。第2(月)((祝)の場合は第3(月))休み。