天を突く鉄筋、むきだしのコンクリート。都心の住宅街に立つのは彫刻作品? それとも廃虚?
「モノをつくる悦びを示したかった。それを、多くの人の目に触れる都心でやることに意味があった」。3月に開業した高輪ゲートウェイ駅も近い東京・港区の聖坂。15年前から建設が続く自邸で、建築家・岡啓輔さん(54)は話す。
現場職人の経験もある岡さんが、自力で地下を掘り、足場や鉄筋を組み、ホームセンターで購入したセメントに、砂利と砂と水を加えてコンクリートを練る。細かい設計図面はなく、作業しながらその場で考える。試行錯誤と成長の跡が、下から上へ地層のように積み重なっている。
こだわるのは、コンクリートの質だ。水分量を極限まで減らしたコンクリートは、見学に訪れる土木・建築の専門家らが「200年はもつ」と太鼓判を押すという。
一帯の大規模再開発計画のあおりで、一時は立ち退きを求められた。3年以内の完成と、道路から10メートル後退させる曳家を条件に存続が決まったが、その準備のため現在工事はストップ。工期が延びて資金難となり、完成後は売却を考えている。ただし、自分と妻の生きている間は住めることが条件だ。「200年もつから、30年ぐらい貸してくれないかと」
人間は豊かさを求めてモノをつくることで知恵を絞り出し、発達してきた、と話す岡さん。物が有り余る今、モノづくりの意義はどこにあるのか。「いろんなことを学べたし、楽しかった。この感覚を次の世代に伝えたいです」
(吉﨑未希)
DATA 設計・施工:岡啓輔 《最寄り駅》 三田 |
聖坂を高輪方面に上り少し歩くと、大正7年創業の餅菓子屋・松島屋(問い合わせは03・3441・0539)がある。隣にはかつて高輪東宮御所があり、ここで皇太子時代を過ごした昭和天皇は、看板商品の「豆大福」(1個190円)を好んだという。