読んでたのしい、当たってうれしい。

街の十八番

十三(じゅうさん)や商店@上野

不忍池の畔(ほとり)で黄楊櫛削り続け

作業する竹内敬一さんの右奥に江戸時代からの内看板が掛かる
作業する竹内敬一さんの右奥に江戸時代からの内看板が掛かる
作業する竹内敬一さんの右奥に江戸時代からの内看板が掛かる サメの皮を張ったヤスリで歯ずりをする。価格はサイズと目による。2寸8分(細目)4968円~。注文生産は約半年待ち

 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ――。不忍池の南側、櫛(くし)職人のツゲを削る心地良い音が聞こえる。

 音の主は、元文元(1736)年創業、黄楊(つげ)櫛製造販売店「十三や」15代目の竹内敬一さん(50)と先代の勉さん(75)。創業者の清八が、九(く)と四(し)の和を屋号に掲げてから絶え間なく続いてきた。櫛は、日本髪の多様化とともに発展し、店の贔屓(ひいき)筋も花柳界や花街で働く髪結いだったという。

 ツゲは、硬さ(密度)、粘り(しなり)、弾力が特徴で、鹿児島県の指宿産を使用。燻(いぶ)してアクを抜き、4~5年ほど乾燥させてから、大きさや形を整える「板削り」、歯を作る「歯びき」、サメの皮や植物のトクサで歯の間を擦る「歯ずり」の手順で、最後にシカの骨で艶(つや)を出し、1枚の櫛に仕上げる。作業は60工程。歯びき以外は、今も全て手作業だ。

 かつて、上野周辺には多くの職人が集った。戦前に20軒ほどあった櫛屋も、残すは1軒。「良い道具や材料も少なくなっています。ただ、ちゃんとしたモノを作っていれば、お客様は選んでくださる」と敬一さん。

(文・写真 井本久美)


 ◆東京都台東区上野2の12の21(TEL03・3831・3238)。午前10時~午後6時半。日曜定休。上野広小路駅。

(2017年11月24日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

街の十八番の新着記事

  • 水戸元祖 天狗納豆@水戸 茨城といえば納豆というイメージをつくったのが水戸の「天狗(てんぐ)納豆」。

  • 大和屋@日本橋 東京・日本橋、三越前に店を構えるかつお節専門店。江戸末期、新潟出身の初代が、魚河岸のあった日本橋で商いを始めた。

  • 佐野造船所@東京・潮見 水都・江戸で物流を担ったのは木造船だった。かつて、和船をつくっていた船大工は今はほとんど姿を消した。佐野造船所は、船大工の職人技を代々受け継ぎながら生き延びてきた。

  • 天真正伝香取神道流本部道場@千葉・香取 「エイ」「ヤー!」。勇ましいかけ声と木刀の打ち合う音が響く。千葉県香取市、香取神宮のほど近く。約600年連綿と伝えられてきた古武術、天真正伝(しょうでん)香取神道流の本部道場だ。

新着コラム