福井県中部、海と山に挟まれた南越前町河野。帯状の平地にかつての廻船業者らの邸宅が残り、往時の繁栄をしのばせます。中でも「日本海五大船主」に数えられた右近家の旧宅を活用した当館は、廻船経営にかかわる資料を展示しています。
古くから水陸交通の要所だった河野の船主は江戸時代初め、近江商人がチャーターする荷所船として活動しました。次第に自ら商品を売買しながら大坂と蝦夷地を行き来する「買積」商いに移行していきます。
右近家9代目の権左衛門(1816~88)はこうした時代に経営手腕を発揮、2、3艘だった持ち船を幕末には11艘まで増やしました。
「船絵馬 仁恵丸」は9代目が造船した船の安全を祈願して社寺に奉納されたものです。船の左上の古武士は住吉神を、右上は船玉神を表します。画面左には白く天保山の高灯籠、遠景には海の安全をつかさどる住吉神社の屋根が描かれています。
版画ですが船の帆など一部は直筆です。作者の吉村重助の落款入りの絵馬は、全国でも数点ほどしか確認されていません。
船簞笥は船乗りの中でも船頭だけが使用しました。9代目が所有したこの簞笥の上段前面中央には家紋の茶の実、左右に権左衛門の「権」と右近家の「右」、周囲にはぶ厚い金具の装飾が施されています。重厚なこの板は上下に溝をつけた「慳貪」式ではめこまれ、鍵もかかります。はずすと下段のような引き出しがあります。
引き出しには立ち寄った港で着るための大切な着物などを入れていました。遭難に備え、海中でも水が入りにくい構造になっていると言われています。
(聞き手・高田倫子)
《北前船主の館・右近家》 福井県南越前町河野2の15(問い合わせは0778・48・2196)。
午前9時~午後4時。500円。水曜、年末年始休み。
河野北前船研究会会長 右近恵 うこん・めぐみ 右近家の菩提寺・金相寺住職。 開館準備中の1988年から94年まで館運営に関わる。 |