霧島連山・栗野岳の中腹、標高700メートルに位置する当館の13ヘクタールの敷地には、23の野外彫刻が点在しています。全て作家が実際に訪れ、設置場所を選んで制作しました。天候や季節により移り変わる周囲の景観も含めて作品と捉えています。
イスラエル出身の環境彫刻家ダニ・カラバン(1930~2021)の「ベレシート(初めに)」は、長さ24メートルのコールテン鋼(耐候性鋼板)製。斜面に突き出したトンネルのようで、眺めるというより入って体験する作品です。
内部を歩くと四方のスリット(すき間)から連続した光の線が差し込み、先端にはめ込まれたガラスの向こうに遮るもののない景色が一望できます。ガラス面には日本語、英語、ヘブライ語で「初めに、神は天地を創造された」という旧約聖書の冒頭の一節が刻まれています。
カラバンの祖国は旧約聖書の主な舞台ですが、ここ霧島にも天孫降臨の神話が伝わります。世界中の人へ向けて自然をたたえ、平和を願う普遍的なメッセージを発信しているように思えます。
作家自身は作品を五感を刺激する「望遠鏡彫刻」と考えており、一人一人がこの「装置」から何かを感じてほしいとも語っています。
鹿児島県出身の八田隆(1952~)による「プライベート・ガーデン」は、大きな岩を割ってできた二つの石に部分的に手を加え、一つの作品としています。一見すると判別しにくいほど周囲となじんでいて、見る位置や距離によって見え方が変わり、「それぞれの庭」ができあがるといえます。
(聞き手・斉藤由夏)
《鹿児島県霧島アートの森》 鹿児島県姶良郡湧水町木場6340の220(問い合わせは0995・74・5945)。午前9時~午後5時(入園は30分前まで)。320円。4月9日からアートホールで「新年度コレクション展」を開催。原則(月)休み。
学芸員 矢野佑輔 やの・ゆうすけ 早稲田大学文学部卒業。2018年4月から現職。近現代美術史専門。館内展示やイベントを多数担当。 |