合掌造りは、手のひらを合わせたような急勾配のかやぶき切妻屋根の建築です。江戸中期~昭和初期にここ岐阜県白川村から富山県の五箇山地区にかけての庄川流域に建てられました。ダム建設などのため小集落の離村が進む中、住み手の無くなった家屋を移築したのが当園で、25棟を保存公開しています。
「中野長治郎家」は集団離村した白川村・加須良集落にありました。何階建てに見えるでしょうか? この家に限らず合掌造りの多くは平屋建て。2階、3階のように見える部分は屋根裏なんですね。
広い屋根裏が養蚕に有効活用されたのも合掌造りの特徴です。貴重な現金収入をもたらす蚕は「おかいこさま」と呼ばれ、大切に育てられました。屋根裏の窓も暑さに弱い蚕のためで、夏は窓を開け風通しを良くしてやったのです。
合掌家屋では火薬の原料になる煙硝作りも行われました。床下に穴を掘り、蚕の糞や人の尿、野草などを混ぜ、土中の菌で発酵させる方法です。白川村は天領でしたが、加賀藩などにも売っていた記録が残っています。
雪深い白川村では、住民同士の協力が必要不可欠。屋根のふき替えは村人総出で行われました。水田が少なかったこの地域では、もち米にトチの実を混ぜた「とち餅」を作りましたが、実を拾うのも全員で。収穫は均等に分配し、老若男女が囲炉裏を囲んで皮をむいたそうです。
当園では晩秋に近隣の方にご協力いただき、石などを使った昔ながらの方法で皮むきをしています。
(聞き手・高木彩情)
《野外博物館 合掌造り民家園》 岐阜県白川村荻町2499(問い合わせは05769・6・1231)。2月まで午前9時~午後4時(入館は20分前まで)。600円。原則(木)休み。
園長 加藤春喜 かとう・はるき 2021年4月から現職。動物学・博物館学が専門。「自然に寄り添って暮らす文化が残っているところが白川郷の魅力」と話す。 |