読んでたのしい、当たってうれしい。

私のイチオシコレクション

大阪市立東洋陶磁美術館

雪の白の満月 災難超え復元

大阪市立東洋陶磁美術館
「白磁 壺」 18世紀 高さ45×胴径43.4センチ
大阪市立東洋陶磁美術館 大阪市立東洋陶磁美術館

 1982年設立の当館は、大阪市が住友グループから寄贈された「安宅コレクション」の中国・韓国陶磁を中心に、東洋陶磁約5700件を収蔵しています。

 「白磁 壺」は、朝鮮白磁の中でも純白磁と呼ばれるものです。純度の高い白土に鉄分を含まない透明釉薬をかけ、1200度以上の高温で焼成。「雪のような白」と表現されます。

 高麗時代は青磁が好まれたのですが、続く朝鮮王朝時代は白磁の本格的な制作が始まります。儒教思想にふさわしい清潔で簡素な磁器として重んじられ、「王の器」とされました。

 本作のような胴体の丸い大つぼは韓国では「満月壺(タルハンアリ)」と呼ばれます。胴を上下二つに分けて作り、つなぎ合わせて焼成する技法で作られています。焼成時のゆがみのためか、角度を変えると違った形に見え、一つで壺10個を持っているようだとも形容されます。

 もとは志賀直哉が所有し、親交のあった奈良・東大寺の上司海雲師に寄贈。95年、侵入した泥棒に粉々に壊されてしまいました。破片を集めて当館に寄贈された後、修復・復元されるという、数奇な運命をたどった壺でもあります。

 「青花 蓮池文 角皿」は、コバルト顔料で模様を描いた白磁です。分厚い板状の台の四隅と中央に、雲形の切れ込みが入った脚が付いています。先祖を祭る儀式などで供物を置くのに使われた祭器とみられますが、この形にはあまり類例がありません。池に咲くハスを中心にした文様は一幅の絵画のようです。

(聞き手・高田倫子)


 《大阪市立東洋陶磁美術館》 大阪市北区中之島1の1の26(問い合わせは06・6223・0055)。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。1400円。2点は来年2月6日まで展示予定。月曜(祝日の場合は翌日)、年末年始、展示替え期間休み。

ジョン・ウンジン

主任学芸員 鄭銀珍

 ジョン・ウンジン 立命館大大学院修了(文学博士)、2008年から同館勤務。専門は東洋陶磁史。著作に「韓国陶磁史の誕生と古陶磁ブーム」(思文閣出版)。

大阪市立東洋陶磁美術館
https://www.moco.or.jp/

(2021年11月2日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

私のイチオシコレクションの新着記事

  • 似鳥美術館 北海道で生まれた家具のニトリが開いた「小樽芸術村」は、20世紀初頭の建物群を利用して、美術品や工芸品を展示しています。

  • 太陽の森 ディマシオ美術館 フランスの幻想絵画画家として活躍しているジェラール・ディマシオ。彼が制作した縦9×横27㍍の巨大な作品が当館の目玉です。1人の作家がキャンバスに描いた油絵としては世界最大で、ギネス世界記録にも内定しています。

  • 宮川香山眞葛ミュージアム 陶芸家、初代宮川香山(1842~1916)が横浜に開いた真葛(まくず)窯は、輸出陶磁器を多く産出しました。逸品のひとつが「磁製緑釉蓮画花瓶(じせいりょくゆうはすがかびん)」です。

  • 小泉八雲記念館 小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が『怪談』を出版して今年で120年。『怪談』は日本の伝説や昔話を、物語として再構築した「再話文学」。外国で生まれ育った八雲が創作できたのには妻の小泉セツの存在が欠かせません。

新着コラム