物語や伝記を詞書(ことばがき)と絵で描いた絵巻物は、平安・鎌倉期に盛んに作られました。1960年開館の五島美術館は、古写経を好んだ実業家・五島慶太のコレクションを核に、書や陶磁など約5千件を所蔵していますが、中でも目玉の一つが国宝「源氏物語絵巻」。保存上、年に1週間のみの公開で、2018年は4月28日から5月6日まで展示します。
本作が作られたのは「源氏物語」誕生から約150年後のこと。現代なら人気小説を映像化するような感覚でしょうか。全54帖のうち、当館は鈴虫の2場面、夕霧、御法(みのり)の3帖を所有。人気が高いのは、教科書にも載っている夕霧ですが、私のイチオシは「鈴虫二」です。夕霧は後に塗り直されて顔が白いのに対し、鈴虫二は顔色や目の筆触が当時のまま。引目鉤鼻(ひきめかぎはな)の品のいい顔がよくわかります。
ちなみに、左上の2人は2千円札の絵柄に使われました。右が光源氏、左が源氏の不義の息子である冷泉院(れいぜいいん)。親子がしみじみと対面しているのです。さらに右側で笛を奏でる男性は、源氏の公の息子、夕霧。複数の場面を一枚に収め、3人の微妙な関係を表しています。
もう一つ紹介したいのが「鹿下絵和歌巻断簡」(しかしたえわかまきだんかん)。江戸初期の絵師・俵屋宗達(たわらやそうたつ)が鹿を描き、同時代の芸術家・本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)が新古今和歌集の秋の歌を書き添えました。鹿の躍動感に添うように、書は力強くしなやか。文字の流れを追うだけでも楽しめますよ。
(聞き手・星亜里紗)
《五島美術館》 東京都世田谷区上野毛3の9の25。午前10時~午後5時。原則(月)((祝)(休)の場合は翌平日)休み。1000円。2点は5月6日まで開催の「詩歌と物語のかたち」展で。問い合わせは03・5777・8600。
学芸員 福島修 ふくしま・おさむ 東京芸術大大学院修了。専門は漆工史。共著に「よくわかる伝統文化の歴史4 大名と町衆の文化」など。 |