「マスク」(1994年) ハナコ・秋山寛貴さんのお笑いの原点には、さえない主人公がハイテンションな超人に大変身して大暴れするコメディー映画「マスク」がありました。
フランスの作曲家・オッフェンバックのオペラを映画化し、バレエと融合したアートシネマです。約20年前に留学先のパリで見ましたが、内容よりも舞台美術や衣装、メイクなど芸術的なところに引かれ、今でも作品制作の際、インスピレーションを受けたいときに見返しています。
詩人のE・T・A・ホフマンの小説を脚色した戯曲をもとに、主人公のホフマンが織りなす幻想的な恋の顚末が3幕構成で描かれています。初めて見たときは内容が全く分からず、見終わってからオペラのあらすじを読んで「これ、恋バナだったの⁉」って。内容を理解してから見ると、ホフマンのちょっぴり間抜けなところやシュールな表現など、随所におもしろさを感じましたね。
第1幕の「オランピアの物語」で、バレエダンサーのモイラ・シアラーの踊るシーンが華やかで一番好き。ねじ式の機械人形オランピアを演じるモイラの肌はマットで目はぱっちり、本物の人形のように愛らしくて。彼女の美しさを羨望のまなざしで見つめる操り人形の役者たちが印象的だったので、ビーズと糸で刺繡しました。人形らしく見えるよう、顔を白くペイントしたのがポイント。踊るモイラの背景が終始黄色だったのにも感銘を受け、黄色の布地を選びました。
映画では人形っぽさを出すために髪の毛にビニールテープみたいなものを使ったり、カチューシャに大きなパール玉を付けたり。豪華な舞台であえてチープな素材を用いたのが現代アートみたいでした。技術を持った人たちの表現だからこそ、すごいなあと思います。
(聞き手・片山知愛)
監 督=マイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガー
製作国=英
出 演=ロバート・ラウンズビル、モイラ・シアラーほか こばやし・もーこ
1977年生まれ。アトリエ「メゾン・デ・ペルル」主宰。著書に「メゾン・デ・ペルルの刺繡」(主婦と生活社)。 |