秋山寛貴さん(お笑い芸人)
「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
存在感が薄い平凡な主婦スズメは、スパイ募集の広告を偶然見つけたことがきっかけで、某国のスパイになります。他のスパイたちと過ごすうちに、何の変哲もない日常の裏側に気がついていく。つまらない日常からも、おかしみが発見できるのだと教えてもらった作品です。
初めて見たのは、仕事を辞めて一人暮らしを始めた20代前半。短歌と出会う前でした。私も存在感が薄いし、趣味もなかったので、カメにエサをやるだけの日々を送る主人公の気持ちに今よりも共感できました。スパイとして潜伏しても何をするわけでもなく、目立たないようにいつもと同じ生活をするんです。自分はスパイだぞと気分が違うだけで、日常の見え方も変わってくる。私も色々と余計な想像をして、日常のささいな出来事をじわじわと味わっています。例えば近所の中華麺屋は、焼きそば、ラーメン、担々麺がすべて千円。麺類に優劣をつけたくないとこだわりがあるのか、計算が苦手な店主なのか、というふうに。
映画を題材に一首詠んでみました。「ところてんみたいにぐっと押し出され存在してたんだね涙は」。存在感のない涙が感情や経験によって押し出されるように、自分の存在感を疑っていたスズメも、色々な経験を通して生き生きとしていく。自信もついて人助けもできるように成長した。そんなスズメをカメにたとえてイラストに描きました。最近あらためてこの映画を見ると、短歌と出会ったことで、退屈な日常が短歌の素材を拾うためのフィールドになったところも似ているなと感じます。
(聞き手・伊藤めぐみ)
監督・脚本=三木聡
出演=上野樹里、蒼井優、岩松了、ふせえり、要潤、松重豊、温水洋一ほか
てらい・なおみ
1985年、米ハワイ州ホノルル生まれ。著書に短歌集「アーのようなカー」(書肆侃侃房)。 |