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建モノがたり

人と仲良しの建築 ~建築家・山﨑健太郎さんインタビュー

 水や緑が豊かな千葉県佐倉市にあるはくすい保育園。一般的な園舎とは異なり、緩やかな斜面に這うように建てられています。なぜこのような形にしたのか、設計した山﨑健太郎さんに伺いました。(聞き手・中山幸穂)

※はくすい保育園の建モノがたりはこちら
https://www.asahi-mullion.com/column/article/tatemono/6290

 

山﨑健太郎さん=山﨑健太郎デザインワークショップ提供

 

――斜面に沿って建てられている点が印象的です。どのようないきさつでこのデザインになったのでしょうか。

 まず僕自身が佐倉市出身で、緑が多く自然豊かなこの辺りの環境をもともと知っていました。それに加え、設備設計の人と一緒に立地を確認したとき、南に向かって傾斜した丘陵地だとわかりました。この恵まれた土地ならではの環境を生かしたいと考えました。広い園庭を作れるようなスペースがなかったので、一帯が遊び場になるような、のびのびとした環境の中で過ごす場にしたいと思いました。

 

はくすい保育園=黒住直臣撮影

 

――自然の風をいかせるように設計したとも聞きました。

 重力換気という仕組みを利用しています。空気は温かいと軽くなり、冷たいと重くなる性質があります。保育園は斜面に建てているので、南側のテラスから取り込んだ空気が室内で温められ、軽くなった空気が上に上昇します。なので北側の高い方に開口部を持っていくと風が自然と抜けていくんです。昔の民家のつくりでもよく活用されていました。 子どもはよく動くので汗をかきますよね。汗をかいた体に風が通ると涼しく感じます。子どもたちの身体性に沿った過ごし方をしてほしいなと思ってデザインしました。大きな1枚屋根を設けたのも近い発想です。雨の日は、雨が大屋根を滑り、一番軒下のテラスに滝のように流れます。風や雨、日差しなど、ここにある自然をそのまま感じられる方が園舎としては良いのではないかという考え方が設計の軸になっています。

 

竣工後のテラス写真=黒住直臣撮影

 

――木造のあたたかさも感じます。

 子どもたちが過ごす環境で鉄筋コンクリートを使うのは、個人的にすごくハードに見えてしまうという抵抗感がありました。構造的にもコスト的にも木造が一番合理的でした。ただ一つ問題があって、木造だと柱が多くなってしまうんですよね。動きまわる子どもたちにとって柱は邪魔になってしまうので、構造体(建物を支える骨組み)をできるだけ中央に集め、フロアの階段状になっているところには柱が来ないようにずらしています。

 ただ、大きな体育館みたいな巨大な空間って落ち着かないのではないでしょうか?ですので、まるで林の中のようにあえて柱を林立することで、空間をあまり大きく感じさせないようにしています。子どもがブレース(対角線状に入れた補強材)によじ登って遊んでいる姿も含めて、ちょっと落ち着くような、あたたかい雰囲気になっているのかもしれません。施設というよりも、大きな家をつくるというイメージを大切にしました。

 

――子どもたちがどう感じるかを大切にされているんですね。

 保育園という建築を思い浮かべると、主体は子どもであると思いたいんです。どんな園舎を建てようかという会議をするときに、子どもはだれも参加しないじゃないですか。一番大切な利用者なのに。会議では、どうしても色々な「もしも」を想像して、その対応策を優先することになることが多いのですが、子どもたちの感受性や視点を軽視する場にしたくないと思っています。設計者は子供たちの代理人であるという気持ちを持ってのぞんでいます。

 

――この保育園も、「もしも」の声があったと聞きました。

 園舎の模型を見せた時は、施設の方々からたくさん心配の声をいただきました。主には段差の部分です。「階段の上から落ちたらどうなるのか」「壁をつくったほうがいいんじゃないか」というお話です。人を預かる責任があり、万が一を考えるのは当然でもあります。どこまで何をやったら安全なのかという議論は、すごく難しい話です。

 安全はだれが約束するのか。過剰な安全性を追い求めて、小さな事故も経験しないような子どもが大人になったとき、危険を回避したり対処したりする力は育まれているのか。安全性を突き詰めると管理社会とか監視社会になりかねないのではないか。本当に難しい話なのですが、やはり会話をすることだと思います。

 実際に会話を重ねるなかで、大事なポイントと感じたのは、「もしって言う時に工夫していくことが福祉では大切。先回りする福祉というのは福祉とは言わない」という趣旨の理事長の発言です。例えば、壁をつくるのではなくネットで仕切れば、下にいる子どもたちが何をやってるのか上の子どもたちは見ることができます。

 階段状のフロアで、さまざまな年齢の子どもたちが一緒の空間にいる豊かさや風通しのよさを大切にしたいと設計した園舎に、最終的には「これくらいにしておこう、そうしないとここの良さが消えるから」と理事長が決められたと受け止めています。 

 

――開放的な空間を保ちながら、小さな部屋もあります。

 子どものお昼寝のための部屋を用意しました。大きな一つの空間を描いた模型を見せた時に、一つの問題が分かりました。それは、3歳と5歳では生活サイクルが大きく違うことです。例えば3歳の子どもが寝ている時に、まだ5歳のお兄ちゃんは元気で走り回っている、それだと3歳の子は寝られないので部屋を分ける必要があるだろう、と。「もし家庭のなかで、自分の弟が昼寝をしていたらお兄ちゃんは騒がないのでは。そういう思いやりの感覚が生じるように保育することが大事なのでは」といった意見もあったのですが、午睡室という1部屋はつくりました。

 

一番手前の部屋が午睡室=黒住直臣撮影

 

――階段状の園舎のなかで、ところによって段差の大きさが違うようです。

 

エントランスから見て左側

 

エントランスから見て右側=黒住直臣撮影

 

 使い方の柔軟性が生まれるよう、あえて変化をつけています。階段2段分ぐらいの段差があるところでも、子どもたちは頑張れば登れます。子どもたちにとって保育室の境界が少し曖昧になっていてもいいんじゃないかという意図で作っています。

 

――お話をうかがっていると、建築と使う人の距離を近づけようとしているようにも感じます。

 僕は建築と人は仲良しの方がいいと思っています。かつて設計したホスピスでは、雑木林の庭をめぐる回廊のような建物にしました。家族や友人とゆっくり過ごせる空間を大切にしたデザインです。

 

 

新富士のホスピス=黒住直臣撮影

 

 実は別のホスピスへ見学に伺った際、がんを患う父親に会う前に気持ちを落ち着かせたり、どのような言葉をかけようか考えたりして廊下で立ち止まっていた娘が、忙しく行き来する看護師の邪魔になってしまってエントランスまで引き返さないといけなかったという話を聞きました。

 ホスピスを利用する人にとって、何が一番いいのか、100人いれば100通りかもしれません。でも、その中で、最後のステージを整えてあげたいと思いました。言えなかった一言を最後に言うことができたとか、大切な人と穏やかに過ごすことができたとか、そういう場を整えることに建築が少しでも役に立てれば、という考えを大切にしています。

 建築だけで全て環境を決め切ることはないし、人の努力だけで使いこなすものでもなくて、その両方が上手く合わさっていいものになってほしい。そういう願いも込めてデザインをしていきたいと思っています。

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