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建モノがたり

ハローこどもファミリー歯科(兵庫県明石市)

波打つ曲線 左官のコンマ数ミリ

青い壁も白いベンチも、子どもが触ったり走ったりすることを前提に作られている カウンセリングルームもオープンな雰囲気が演出される 歯科医院2階にある半個室診療室 待合室の壁に近づくと砂の粒もみえる 壁の粉が落ちたときに受け止める溝もある

 クリニックの待合室といえば、定番はパステルカラー。そんなイメージを覆すブルーの空間が広がっていた。

 

 波のようにうねる青い壁と、有機的な曲線を描く白いベンチや柱が、鮮やかなコントラストをみせる。ハローこどもファミリー歯科の待合室。ベンチに腰を下ろすと、海底にいるような心地がして不思議と落ち着く。

 「ええ具合でしょう」。診療を待つ男性に声をかけられた。この空間がお気に入りなのだという。壁は淡路島の山砂を主原料にした左官仕上げ。漆喰の天井や照明を兼ねた柱、セメントの床も全て、左官職人の久住有生さん(52)が手がけたものだ。

 設計を担当したタニワ建築設計の谷和司朗さん(55)も「雪がしんしんと降るような、雑音がミュートされた雰囲気」と話す。

 歯科は診療規模の拡大に伴って3年前に新築された。待合室は何もない床にペンで線を引きながら作り上げられた。「その場で作れる左官の技は、立体物の制作に向いている」と久住さん。

 ベンチの低い部分に座る人、柱の陰で静かに順番を待つ人と、来院者が好きな場所を選べるように施工した。ベンチや柱は、木材の下地に金網やモルタルを重ねて成形。コテなど約1300もの道具を所有するが、理想的なベンチの角の丸みを作るために新調した物もあるという。

 左官の難しさを聞くと、「例えば平面をならすとき、指先だけでコンマ何ミリまで厚みを測れますが、数字通りに塗るとただの平らな面になる。美しく見せるのは別の話です」。緻密な計算の一方で偶然が生む面白さも大事にする。職人の手の大きさなどでも微妙に変わる仕上がりを生かそうと、10人がかりで壁の波模様を削った。

歯科の岨卓与院長(52)は「僕が幼いころに感動した経験から、子どもたちにも職人による本物を見せてあげたかった」と、久住さんに依頼した経緯を話す。予防歯科や矯正の患者がほとんどで、歯痛のストレスを抱える人に配慮した淡い色調を選ぶ必要がなく、海を連想させる青色になった。「勝手に日本一美しい待合室と呼んでいます」

(中村さやか、写真も)

 DATA

  設計:タニワ建築設計
  階数:2階
  用途:歯科医院
  完成:2021年12月

 《最寄り駅》:西江井ケ島


建モノがたり

 三ツ矢サイダーミュージアム(☎078・941・2309)を併設するアサヒ飲料明石工場へは車で約10分。ガイドが案内する無料の工場見学に参加でき、試飲も可能(要予約、所要約90分)。ミュージアム内では、三ツ矢サイダーの歴代のボトルや広告などの歴史が紹介され、オリジナルグッズの販売もある。

 

2024年12月10日、朝日新聞夕刊記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください

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