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建モノがたり

学士会館(東京都千代田区)

1世紀前の空気そのままに

建てられた当時の趣がよく残る旧館201号室。楽団向けのバルコニーから撮影

 東京・神田の街角で学士会館は重厚な魅力を放つ。1世紀近い歴史に、まもなく新たなページが刻まれる。

 

 玄関の半円アーチをくぐり、黄金色の板を押す。広がる赤いカーペットに、ふと気持ちが盛り上がる。

 東京大学発祥の地にこの建物ができたのは1928年。旧帝国大学出身者でつくる「学士会」は13年に拠点を構えたが火事で焼け、再建を図る途上で関東大震災が起きた。その5年後にようやく4階建ての旧館が誕生し、37年に5階建ての新館もできた。

 旧館201号室は現在も宴会場や結婚式場として使われている。厳かな空気が漂う。天井にはシャンデリア。壁から室内に張りだすバルコニーは小編成の楽団向けにつくられた。「両サイドをH形鋼が支えることで、柱のない大空間が広がっています」と学士会の広報担当者は話す。

 無二の空間だけに数々の映画やドラマの場面にもなってきた。高視聴率を誇ったテレビドラマの重要な場面が撮影され、大リーガー大谷翔平選手への動画取材の場として知られている。

 昭和史の影も帯びている。36年の2・26事件の時には鎮圧側の司令部が置かれた。太平洋戦争の開戦後には屋上に高射機関銃陣地。終戦後は連合国軍総司令部に接収され、将校の宿舎などとして使われた。

 ただ築100年が近づき、耐震性も含めて老朽化が懸念されるように。19年度に再開発の検討を始め、今年12月29日に営業を休止。29年度のリニューアルオープンをめざす。

 旧館はその希少性から、ほぼそのままの姿で約7メートル移動させる「曳家保存」をする。この地は日本野球発祥の地で、明治初期の宗教者・教育者、新島襄生誕の地付近でもある。歳月の陰影は途切れない。

(木元健二、写真も)

 DATA

  設計:旧館=佐野利器(監修)、高橋貞太郎(設計)、新館=藤村朗
  階数:地下1階、地上5階
  用途:音楽ホール、講義室など
  完成:旧館=1928年、新館=1937年

 《最寄り駅》:神保町


建モノがたり

 徒歩約5分の東京堂書店(☎03・3291・5181)は1890(明治23)年創業の老舗。3階までの店内には新刊のほか、目利きのスタッフが選んだ文芸書や専門書、ブックフェアが広がっている。年始を除き無休。平日午前11時~午後8時(土、日、祝は午後7時まで)。

 

(2024年10月29日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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