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AQGroup新社屋(さいたま市)

ガラス越しに見える格子状の壁は「組子格子耐力壁」
ガラス越しに見える格子状の壁は「組子格子耐力壁」
ガラス越しに見える格子状の壁は「組子格子耐力壁」 吹き抜けの1階エントランスホールは、明るく開放的

 大宮駅から車で10分。国道17号沿いに、ひときわ目立つ高層ビルが。格子状の明かりに照らされた建物は、こだわりの「純木造」だ。

 

 高さ約31メートル、延べ床面積約6千平方メートルの8階建てビルは、木造注文住宅を手がけるAQ Group(旧アキュラホーム)の新社屋だ。今年5月、本社機能を東京から創業地の埼玉県に移転した。

 「ついにこれができたか」。設計を担当した野沢正光建築工房の岩﨑遊さん(35)は、ビル完成時の感動をこう語った。

 木造の中大規模建築を全国の工務店の職人らが手がけられるようなプロトタイプをつくりたい――。AQ Groupのそんな理念を受け、柱や梁などを木組みで造る伝統的な「在来軸組工法」での設計に着手した。

 高層の木造建築には、耐震性という課題がある。一方で法隆寺の五重塔など、1千年以上前に建てられた寺社建築が今も残る。「同規模のものを現代の技術で造りたいという思いがあった」

 課題をクリアさせたのが、構造設計を担当した東京大学名誉教授の稲山正弘さん(65)とAQ Groupが開発した「耐力壁」だった。

 稲山さんは、木造の耐力壁の強さを競う「壁―1(カベワン)グランプリ」に同社と20年ほど共同で参加してきた縁でプロジェクトに加わった。住宅用合板壁の8倍ほどの耐震性をもつ合板壁を開発。木を格子状に組み上げる伝統技術「組子」で、同等の耐震性をもつ耐力壁も作りあげた。

 特殊な建材ではなく一般的に流通する木材や金物で、免振装置をつけなくても安全性が保たれた。柱や梁、床に石膏ボードを2~3重に巻くことで、建築基準法で必要な耐火性能も確保している。

 戦後日本の街づくりではコンクリートや鉄骨の建築が目立ってきた。「地球温暖化が課題となるなか、木造建築はCO₂排出量の削減に貢献できる」。稲山さんは呼びかける。

 日中は、耐力壁の機能を持つ格子状の壁から日の光がオフィスに差し込んでくる。社員の一人は「ちょうどよい採光で、気持ちよく業務に臨める」と話した。

(高田倫子、写真も)

 DATA

  設計:野沢正光建築工房/ホルツストラ 一級建築士事務所
  階数:地上8階
  用途:事務所・展示場
  完成:2024年3月

 《最寄り駅》:大宮


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 大宮駅東口から徒歩5分の伯爵邸・大宮店(☎048・644・3998)は、1975年創業の喫茶店。ご当地グルメ「大宮ナポリタン」の「元祖」を名乗る。大宮駅周辺の鉄道関係者らに古くから愛された老舗の味だ。伯爵邸大宮ナポリタン900円(午前11時~午後2時半)、ランチ時間帯以外は主に950円。24時間年中無休。

 

2024年10月8日、朝日新聞夕刊から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください

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