JR名古屋駅近くの高架下。頭上を東海道新幹線が頻繁に往来する。なぜ、こんなところにオフィスが?
名古屋駅前の街並みが刻々と暮れていく。駅前を抜けて、歩くこと約10分。「ささしま高架下オフィス」は、すっぽりと収まるように新幹線の高架下に立っている。
2階建て、延べ床面積約1千平方メートル。ITサービスを提供するスタートアップ企業「スタメン」が、2022年3月から1棟借りする社屋だ。近くに事務所を構えていた同社は、社員の増加を見すえて移転してきた。
たしかに広いオフィスだが、なぜ高架下なのだろう。JR東海グループのディベロッパー「名古屋ステーション開発」の澤谷俊樹さん(59)は「街づくり」をキーワードに掲げる。
元々、線路は街を分断してきた。人が行き来できるように高架にしても、倉庫や駐車場に使われたり、ゴミを捨てられないようにフェンスで囲われたりすることが多かった。
「高架下を、街をつなぎ直す存在に変えていきたい」。そんな理念に共感し、設計したのはアトリエ事務所「MARU。architecture」。高架は「人間の身体からかけ離れた存在」とみていた建築家の高野洋平さん(45)は、その「リノベーション」をイメージした。
オフィスは木造だ。「無機質な高架に対し、温かみのある木で身体感覚に近づけた」。愛知県産の三河杉を使った柱や梁の香りが鼻をかすめ、家のような優しい空間を醸し出す。
数段の階段もあちこちにある。高さが異なる高架の中間梁に対して、場所によって床の高さを変える「スキップフロア」で応じたためだ。内壁がなくても高低差で空間が何となく区切られ、従業員は用途に合わせ、好きな場所で仕事をしている。
地震への対策で、高架の柱と、オフィスの柱や梁との間には10センチ程度のすき間を設けた。耐震壁の間にできた空間は、スタメンのアイデアで棚や洋服掛けとして活用され始めた。
高架下の歩道を社会人や大学生が通りすぎていく。歩道側に大きく跳ね出した2階は、木材と炭素繊維を組み合わせた建材が支え、「庇」のようだ。ガラス張りの壁から漏れるオフィスの明かりに、人々がおのずと集っているように見えた。
(島貫柚子、写真も)
DATA 設計:高野洋平+森田祥子/MARU。architecture 《最寄り》名古屋 |
徒歩3分の「セルフカフェささしまライブ店Wi-Fi・電源完備の無人カフェ」。ドリンクを1杯注文すると時間無制限で席を利用できる。「お家・カフェ・図書館のちょうど間のような存在」がコンセプトという。午前8時~午後10時。無休。
▼高架下のスピンオフストーリー
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