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建モノがたり

ライズ(東京都渋谷区)

金属ドレープが覆う「虚構」空間

屋根のドレープは、主に約3×4メートルのパーツ44個で構成される
屋根のドレープは、主に約3×4メートルのパーツ44個で構成される
屋根のドレープは、主に約3×4メートルのパーツ44個で構成される 額縁(右上)にゆがんだ鏡面仕上げのアルミをはめた。「虚構」を細部にわたり表現 日を浴びて輝くドレープ スペイン坂から見る

渋谷の街中にある金属の衣をまとった建築。そこは、かつてミニシアターブームを牽引(けん・いん)した映画館だった。

 渋谷駅から徒歩約5分のスペイン坂を上ると、風になびく巨大な金属の布のようなものが現れる。完成はバブル初期。渋谷は最先端のカルチャーとそれを求める人々が集積していた。

 建物を所有する頼(らい)光裕さん(71)は、当時の渋谷の状況から映画館を作ることを決めた。建築家の北川原温さん(72)は、急速に更新され、実体がつかめない「虚構」のような街を、映画という想像上の世界と重ねて建物に投影した。

 2階と地下の2スクリーン、店舗が入った複合ビルの屋根は、アルミの鋳物製のドレープ(ひだ)やステンレスのネットに覆われた。窓口やスクリーンの脇にはアルミ製の幕が飾られていた。

 当時の価格で1億円以上というドレープの提案に、頼さんは悩んだ末に決心した。2階から4階をつなぐ階段には、大きな曲面の天井が現れる。北川原さんは「都市には曲線も直線もある。都市の断片を集めた」。

 当初、2階は大手興業会社の提携館だったが、1991年から全て直営の「シネマライズ」となり、「トレインスポッティング」「ムトゥ 踊るマハラジャ」「アメリ」などヒットを連発。頼さんは「見たことの無いものを提示したい」と走り続けた。

 時代が変わり、その役割を果たすことが難しいと感じ始めた2008年ごろ、ライブハウスの入居先を探していた名取達利さん(50)と出会う。シネマライズに通っていた名取さんは、「時空がゆがむような非日常感」があるライズはライブに没頭できる空間になると思い描いた。10年に地下はライブハウス「WWW」、16年に2階が「WWWX」となり、シネマライズは30年の歴史に幕を下ろした。

 完成から約40年。街並みの均質化が進み「当時よりも建物の不思議さが際立っている」と、北川原さん。「提案を受け入れてくれた頼さんはすごい。実現できたのは、幸運としか言いようがないですね」

(深山亜耶、写真も)

 DATA

  設計:北川原温
  階数:地下3階、地上4階
  用途:ライブハウス(旧映画館)、店舗
  完成:1986年

 《最寄り駅》:渋谷


建モノがたり

 徒歩5分の紅茶の店 ケニヤン(☎03・3464・2549)は1978年開業で、日本紅茶協会が「おいしい紅茶の店」に認定した喫茶店。紅茶にミルクと砂糖を入れた、オリジナルのアイスミルクティー「アイミティー®」が看板商品。ケーキやパスタ、ドリアも。午前11時半~午後10時(ラストオーダーは食事は1時間前、飲み物、デザートは30分前)。無休。

▼北川原温さんのロングインタビューも掲載しています
https://www.asahi-mullion.com/column/article/tatemono/6142

(2024年8月6日、朝日新聞夕刊欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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