大学の合宿施設が、書店やカフェが入る複合施設に生まれ変わった。地域の憩いの場になっているというが、なぜ?
緑まぶしい森を歩いていくと、青空を反射させたガラス張りの施設が目に飛び込んでくる。四方に広がる大屋根は、柔らかい曲線がスカートのようにみえる。
蔦屋書店などを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が昨年3月、書店やカフェ、レストランが並ぶ複合施設「軽井沢コモングラウンズ」を長野県軽井沢町に開業した。
観光地が多い軽井沢において、森に包まれるような地域住民の憩いの場をめざして造られた。約3500坪の敷地の10%ほどにしか建物を建てず、周囲の木はなるべく切らないようにした。
「長年紡がれてきた歴史を尊敬し、思い出を守りたかった」。設計した建築家の一人、アストリッド・クラインさん(62)は言う。
その象徴は、敷地の中心部にある書店棟。元々は青山学院女子短期大学の「中軽井沢寮」だった。サマースクールやゼミの勉強会のにぎわいが、地域の一つの風景となっていた。
10年ほど前から昔のようには使われなくなり、木造2階建ての建物にはゆがみもあった。それでも状態が良かった柱や梁を残し、まわりを囲むように平屋を増築した。コルセットのように支えて耐震性を確保した。
木の階段が残る書店棟に入ると、遠くに浅間山、近くに木々や野鳥など豊かな自然がガラス越しに広がる。外に向かってせり出す屋根が開放感を演出し、クラインさんは「景色を抱っこしている」と表現する。
開業して1年ほど。敷地内の畑で時々、地域の農家と子どもたちがジャガイモやトウモロコシを栽培する。取れたての食材は施設のテナントが調理し、子どもたちとともに来訪者に提供もした。
あるテナントのスタッフは、こう語ったという。「ここができる前は、夜になると真っ暗だった。建物に明かりがフワッとともった時、良い場所ができたと思って働き始めた」
テナントは、軽井沢にゆかりのある店が中心に入っている。地域密着への強いこだわりが感じられる。
(斉藤梨佳、写真も)
DATA 設計:クライン ダイサム アーキテクツ 《最寄り駅》:中軽井沢 |
施設内のRK DAYS(☎0267・41・0601)は素材の味を生かした総菜を販売。唐揚げを甘くしょっぱいタレで絡めた「大西シェフのてり唐 RK特製マヨネーズ添え」や「RK DAYS特製ラザニア」が人気。【前】10時~【後】6時、原則【火】休み。