「土から生えてきたような建築」ってなんだろう? とことん考えた先に見つけた形とは。
「近くに来るまでどこにあるか分からなかったでしょ?」。「道の駅ましこ」オープン前からかかわる栃木県益子町総合政策課の上田昌史さん(53)はこう言って出迎えてくれた。三角屋根は周囲の山の稜線(りょう・せん)と似た勾配でリズムを刻み、建物は畑と里山の風景に溶け込んでいる。
設計した建築家の原田真宏さん(51)、麻魚さん(47)は当時の町長から「土から生えてきたような、この土地らしい建築にしてほしい」と言われたという。
土から生える? その意味をとことん考えてたどり着いたのは、土地の風景や産物を採り入れること。それは地域の人がもっと益子を好きになることにもつながるのではないか。
里山の傾斜を建築に再現したような架構には、地元産の八溝杉(や・みぞ・すぎ)の集成材を使った。架構を支える分厚い台座は、益子に点在するタバコの乾燥小屋に用いられた土壁で表面を仕上げている。かつての技術は失われつつあり材料の配合なども不明だったが、左官職人に協力を仰ぎ再現した。これが好評で、現在では地域の建築にもこの土壁が使われることが増えたという。
プレオープンの日、農家の人が畑を見ながら「益子ってこんなにきれいなところだったんだ」とつぶやくのを聞いて、成功を確信したと真宏さんは振り返る。かつて民芸運動に見いだされた素朴な益子焼も念頭に、土地のものから生み出され、土地の良さを再認識できる建築は「大きな民芸品だと思っている」。
オープンに先立つ2年前には実証店舗が開かれた。その経験を踏まえ、食品加工や移住相談を行うなど地域の拠点としての事業を充実させている。コロナ禍では駐車場で農産物のドライブスルー販売を行うなど工夫を重ね、開業から7年で来場者500万人を達成した。上田さんは「まだ完成ではない。時代の流れに合わせ、絶えず進化していく」と目を輝かせた。
(斉藤梨佳、写真も)
DATA 設計:マウントフジアーキテクツスタジオ一級建築士事務所 《最寄り駅》:益子 |
館内のましこのごはん(☎0285・72・5530)は地域の食材を使用したロースト野菜&チキン(またはポーク)定食が人気。使う食材はスタッフが売り場で厳選、益子焼の食器を使う。[前]11時~[後]4時半(ラストオーダーは食事2時、カフェ4時)、第2[火]休み。