古びた倉庫の鉄扉におしゃれなロゴ。出入りする人もなんだか楽しそうに見えるのだが?
尾道駅から徒歩約5分の海辺にある「ONOMICHI U2」は、1943年に建設された旧県営上屋(うわや)2号倉庫を改装した。かつて駅との間に引き込み線が敷かれ、貨車が行き来していたエリアも、倉庫は長年使われず、暗く人が近寄らなくなっていた。
「尾道に足りないものは何かと考えた時、まず宿泊施設だった」。2012年に広島県が募集した倉庫活用プロポーザルに応じた運営会社の吉田挙誠さんは話す。宿泊に加えもう一つの柱が「サイクリング」だった。
尾道は、景観の美しさにひかれ国内外からサイクリストが訪れるしまなみ海道の本州側の起点。ヘルメットをかぶり、体にフィットしたウェア、歩くとカチカチ音がするシューズ。当時は「町でなじみがない存在」のサイクリストをフレンドリーに迎え入れる「サイクリングホテル」を、と計画した。
約20メートル×約100メートルの内部の約半分を占めるホテルは28室。自転車のままチェックインでき、屋内に駐輪スタンド、メンテナンススタンドを備える。サイクリストの愛車は高価なものも多く、客室に持ち込んでハンガーにかけておくこともできる。
ホテルのほかにはレストラン、パン屋、カフェ、自転車ショップ、雑貨や地域の産品を販売するショップが入る。町ににぎわいを取り戻すためには宿泊客やサイクリストだけでなく、地元の人が日常的に使える施設が必要と考えた、と吉田さん。
これらの施設が倉庫の大空間そのままに、壁や仕切りがなく連続する。「倉庫の中に尾道の町を表現したかった」と、設計したサポーズデザインオフィスの吉田愛さんは話す。外部と内部、内部の施設同士を行き来しやすくして、ゆったりとした瀬戸内の時間を感じてもらえるように意識した。
外観はほとんど手を加えず、倉庫らしい鉄の扉もそのまま。「U2」の名は「上屋2号」を受け継いでいる。
(中山幸穂・写真も)
DATA 設計:吉田愛・谷尻誠/サポーズデザインオフィス 《最寄り駅》 尾道 ONOMICHI U2 |
施設内のButti Bakery(ブッチベーカリー)(☎0848・21・0564)は、広島弁で「とても」を意味する「ぶち」が名前の由来。瀬戸内産の食材を使った「季節やさいの焼きカレーパン」(380円)、サンドイッチ(380円~)など。午前9時半~午後6時半。