筆者が育った佐世保市のあちこちから眺められる3本の塔。初めて間近で見てみると……。
そびえ立つ3基の無線塔を含む旧佐世保無線電信所(針尾送信所)施設は旧日本海軍が1922年に完成させた。現在の価値で約250億円が投じられ中国、東南アジア、南太平洋方面の部隊との通信に使われた。
底部の直径約12メートル、高さ約136メートルの無線塔3基は1辺300メートルの正三角形の頂点に位置する。当時の無線の主流は長波で、遠距離通信には巨大な施設が必要と考えられていた。
「一言でいえば美しい。そして技術力がすごいです」と、佐世保市教育委員会の松尾秀昭さん(43)は話す。鉄筋コンクリート造りの塔の外観にひび割れなどは見られない。内部の構造物の一部にさびがあるものの、塔頂部まで続くはしごは現在も点検の際に使っている。
当時鉄筋コンクリートは比較的新しい技術だった。同じ頃千葉や台湾に造られた無線塔が鉄製なのに対し、佐世保ではコンクリートが使われたのは、軍港のあった佐世保には鉄筋コンクリート構造に詳しい技術者がいたためと考えられている。
「材料選びから完成まで手間暇かかっています」と松尾さん。塩分による劣化を防ぐため、コンクリートに混ぜる砂や石は佐賀県唐津市の川砂を使い、さらに真水で洗浄された。岩盤を掘削した深さ約6メートル、直径約24メートルの基礎の中心に木材でタワーを組み上げ、中に作業用昇降機などを設置。塔の高さを100層に分け、気泡が入らないよう1層ずつ丁寧に締め固めながら打設された。
「小さい頃は遊び場だった。地元の誇りだね」と話す田平清男さん(81)は、2013年の重要文化財指定を機に発足した針尾無線塔保存会の会長を務める。近隣2地区の約100世帯でつくる保存会は毎日交代で現地に待機し訪問者の案内をするほか、草刈りも行う。
建設から100年の昨年、市は長期保存に向けた本格的な調査を開始した。「あと100年は大丈夫だって」と期待する田平さんは「多くの人に来てほしい。戦争のことも、建物の技術も知ってほしい」と話した。
(田中沙織、写真も)
DATA 設計:吉田直 《最寄り》:佐世保駅からバス |
佐世保市内の九十九島(く・じゅう・く・しま)観光公園は約4.7ヘクタールの芝生広場にある丘から、リアス海岸の沖に広がる群島、九十九島の大パノラマを見渡せる。とくに海に沈む夕日は絶景。佐世保駅前からバスあり。午前8時~午後8時(10月~2月は7時まで)。問い合わせは佐世保市都市整備部公園緑地課(0956・24・1111)。
旧佐世保無線電信所(針尾送信所)施設の見学について
https://www.city.sasebo.lg.jp/kyouiku/bunzai/kengaku.html
九十九島観光公園
https://www.city.sasebo.lg.jp/tosiseibi/kouenk/99kankoukouen.html