大学やホテルも近い都心の一等地。交差点を行き交う人が思わず目を止める建物は何?
「思うように造ってください。使い方は後から考えます」。一般社団法人倫理研究所が本部の向かいに新築する建物について1年ほど続いた検討は、丸山敏秋理事長の一言で白紙に戻った。旧知の仲である建築家の内藤廣さん(72)は、「東京のど真ん中のあの場所で、何か社会的に大きなものを託された気がした」と話す。
東京都景観審議会計画部会の専門員として高層ビルなど多くの都市再開発計画にかかわる内藤さんは、いつごろからか疑念を抱いていた。「土地の経済価値を最大化する、ある種のゲームに乗らない建築はできないものかと」。用途を考えなくていいという申し出に、「建築そのものが本来持つ力」を示す挑戦だと感じた。
一辺15㍍のコンクリートの立方体を、4本の柱が下から支える。「力強さ」を強調するため、あえて四隅より内側に寄せた柱は下部が四角形、上部が六角形の特徴的な形になった。
重量感や力強さの表現は、設計の方向性を決めたキーワード「縄文」に由来する。決まった用途がない中、「とっかかり」を求めて丸山理事長と雑談する中で挙がった言葉だ。一方、立方体の外側を覆うガラスパネルは繊細で精度の高い「弥生的」な価値を象徴する。
吹き抜けで一体化した2~5階の内部にはトップライトから光が降り注ぐ。「空が直接見える感じ」や「柔らかい光」にこだわり、底面が2・5㍍角、上部は丸みを持たせた煙突形の開口部を埋め込んだ。
完成から2年半、今も使い道は決まっていない。「用途から切り離されたことで、自分が目ざしてきた建築が改めてわかった」と、数々の著名な建築を手がけてきた内藤さんは話す。「ここがどう使われてもいい。長く人をひきつける空間になれば」
(島貫柚子、写真も)
DATA 設計:内藤廣建築設計事務所 《最寄り》麴町 |
徒歩4分、ビジネス街の中にある日本料理店 麴村(☎03・3230・1948)は、昼時に行列のできる人気店。野菜と角煮の板前カレー(1千円)、松花堂弁当(1200円)などボリューム満点のランチが楽しめる。[前]11時~[後]2時半(ラストオーダーは2時)、5時~11時((土)(祝)は10時まで)。(日)休み。