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建モノがたり

駿府教会(静岡市葵区)

優しく降り注ぐ「ガーゼの光」

壁と天井を覆う羽目板のすき間からは、礼拝堂を支えるトラス構造の柱や梁が透けて見える
壁と天井を覆う羽目板のすき間からは、礼拝堂を支えるトラス構造の柱や梁が透けて見える
壁と天井を覆う羽目板のすき間からは、礼拝堂を支えるトラス構造の柱や梁が透けて見える 割肌板は当初の明るい茶色から徐々に炭化した。<br>表面に細かい凹凸があるため光の角度によって見え方が変わる

線路沿いの角地にたたずむブラックシルバーの立方体。中に入ると頭上からの光に驚く。なぜこんなふうに?

 100年以上の歴史を持つ駿府教会は、老朽化した礼拝堂の建て替えを機に市中心部近くに移転した。設計したのは、自らもクリスチャンの西沢大良さん(58)。苦心したのは「音」と「光」だった。

 敷地は数分おきに電車が通る線路沿いで踏切も近い。騒音対策として壁には窓を作らず、トラス構造の柱や梁を収める厚さ76㌢の外壁に遮音材や吸音材を重ねた。

 「光」は天窓から取り入れる。「天地創造は『光あれ』の言葉からですしね。この世で最も美しく光が降る場所にしたかった」と西沢さんは話す。

 無垢材の羽目板をすき間を空けて並べ、天窓と壁を覆うことを考えた。模型を作り照明を当てて写真撮影し、光の効果を確かめた。板の間隔や角度など様々に試すうち、「それ」は現れた。天窓からの光と、壁の板が反射する光が交差する、細い糸で織ったガーゼのようなやさしい光だ。「見たことがなく最初は信じられなかったが、何度も再現できるので、これは(実物でも)できるかも、と思った」

 壁の羽目板の幅は9㌢から上へ向けてグラデーションのように細く、上部と天窓では1・5㌢。規格外の細さとミリ単位の調整は工務店泣かせだったという。

 「神様の仕事にダメ出しはよくないのでは」と、礼拝堂の外装も無塗装の木材にこだわった。耐久性を考え、腐食しにくいレッドシダー材を採用、中でも繊維を切断せず水がしみ込みにくい「割肌板」を使った。

 建築雑誌でも取りあげられた教会には、取材の日も県外からの見学者の姿があった。2017年に着任した牧師の中村恵太さん(36)は「建築が人を結びつけてくださっていることに、ただただ感謝です」と話す。

(宮嶋麻里子、写真も)

 DATA

  設計:西沢大良建築設計事務所
  階数:地上2階
  用途:教会
  完成:2008年

 《最寄り駅》 日吉町


建モノがたり

 徒歩約7分のHiBARI BOOKS & COFFEE ひばりブックス(問い合わせは054・295・7330)は50平方㍍余りの店内ながら詩集、短歌、外国文学、人文書などの豊富なジャンルの書籍を取りそろえる。ブレンド(500円)やラテ(600円)などを提供するカフェのほか、ギャラリーも併設する。午前11時~午後8時、(月)休み。

(2023年1月24日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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