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建モノがたり

上州富岡駅(群馬県富岡市)

高崎から約40分、世界遺産・富岡製糸場の最寄り駅は大きな白い屋根が目立つ。れんが造りだけど、現代的にも感じるのはなぜ?

れんがの壁が大屋根を支える。同じれんがが駅前周辺の広場にも敷かれている
れんがの壁が大屋根を支える。同じれんがが駅前周辺の広場にも敷かれている
れんがの壁が大屋根を支える。同じれんがが駅前周辺の広場にも敷かれている 人が自然に腰掛けられる場所を用意。「町の縁側みたいに」と設計した2人

世界遺産の精神 軽やかに継承

 富岡製糸場の世界遺産登録に合わせて建て替えられた上信電鉄の上州富岡駅。東日本大震災直後に行われた設計コンペには全国から359案の応募があった。

 コンペでは、150年前から当時の最先端を追求した富岡製糸場の「気概を継承した」デザイン、維持管理面など経営の厳しいローカル線の現状への配慮などが求められた。最優秀賞に選ばれたTNAの武井誠さんと鍋島千恵さんが悩んだのは、れんがとの向き合い方だった。

 多くが国宝や重文に指定される富岡製糸場の建物は、木の柱やはりとれんがを組み合わせた木骨れんが造りで知られる。その玄関口として「れんがは避けて通れない」と考えた。一方で、れんがで新しさを感じられるのか。2人が出した答えが、「軽やかなれんが造り」だった。

 足元にもれんがが敷かれた通路から、れんが積みの壁がニョキニョキと。壁で完全に囲まれた空間はなく、全体が見通せる。壁の上部から細い鉄柱が伸び、全長約90メートルの大屋根を支えている。

 壁の内部には鉄筋や筋交いを施した。製糸場の木骨れんが造りを応用、発展させた「鉄骨れんが積造」だ。れんがに通した鉄筋に力を加え、れんがへ圧力をかけることで耐震性向上に配慮した。

 黄色みを帯びたれんがはオリジナル。鉄筋を通すためサイズは大きめ、強度や凍害防止を考えて吸水率は低く、汚れの目立たないれんがを目ざした。地元の大学や愛知県のメーカーと実験や試作を繰り返し、出来上がったのがこの色合いだ。

 れんがの壁は富岡製糸場と同じフランス積みで、長辺と短辺が交互に並ぶ。が、よく見ると長辺が連続する部分がある。筋交い部分を収める工夫で、名づけて「富岡積み」。列車を待つ間に探してみては。

(伊東哉子、写真も)

 DATA

  設計:武井誠+鍋島千恵/TNA
  階数:地上1階
  用途:駅舎
  完成:2014年


建モノがたり

 富岡製糸場(電話0274・67・0075)へは徒歩15分。約5万5千平方メートルの敷地内に創業当時は世界最大規模の繰糸所、繭を貯蔵した置繭所、フランス人指導者が住んだ首長館などがある。カイコの生態展示や座繰りによる糸枠飾りづくりの体験も(要予約・別料金)。千円。[前]9時~[後]5時(入場は30分前まで)。12月29~31日休み。

(2022年11月8日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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