世界遺産の精神 軽やかに継承
富岡製糸場の世界遺産登録に合わせて建て替えられた上信電鉄の上州富岡駅。東日本大震災直後に行われた設計コンペには全国から359案の応募があった。
コンペでは、150年前から当時の最先端を追求した富岡製糸場の「気概を継承した」デザイン、維持管理面など経営の厳しいローカル線の現状への配慮などが求められた。最優秀賞に選ばれたTNAの武井誠さんと鍋島千恵さんが悩んだのは、れんがとの向き合い方だった。
多くが国宝や重文に指定される富岡製糸場の建物は、木の柱やはりとれんがを組み合わせた木骨れんが造りで知られる。その玄関口として「れんがは避けて通れない」と考えた。一方で、れんがで新しさを感じられるのか。2人が出した答えが、「軽やかなれんが造り」だった。
足元にもれんがが敷かれた通路から、れんが積みの壁がニョキニョキと。壁で完全に囲まれた空間はなく、全体が見通せる。壁の上部から細い鉄柱が伸び、全長約90メートルの大屋根を支えている。
壁の内部には鉄筋や筋交いを施した。製糸場の木骨れんが造りを応用、発展させた「鉄骨れんが積造」だ。れんがに通した鉄筋に力を加え、れんがへ圧力をかけることで耐震性向上に配慮した。
黄色みを帯びたれんがはオリジナル。鉄筋を通すためサイズは大きめ、強度や凍害防止を考えて吸水率は低く、汚れの目立たないれんがを目ざした。地元の大学や愛知県のメーカーと実験や試作を繰り返し、出来上がったのがこの色合いだ。
れんがの壁は富岡製糸場と同じフランス積みで、長辺と短辺が交互に並ぶ。が、よく見ると長辺が連続する部分がある。筋交い部分を収める工夫で、名づけて「富岡積み」。列車を待つ間に探してみては。
(伊東哉子、写真も)
DATA 設計:武井誠+鍋島千恵/TNA |
富岡製糸場(電話0274・67・0075)へは徒歩15分。約5万5千平方メートルの敷地内に創業当時は世界最大規模の繰糸所、繭を貯蔵した置繭所、フランス人指導者が住んだ首長館などがある。カイコの生態展示や座繰りによる糸枠飾りづくりの体験も(要予約・別料金)。千円。[前]9時~[後]5時(入場は30分前まで)。12月29~31日休み。