コンクリートの箱の上に、切り妻屋根の〝小屋〟がちょこんとのる。崖沿いの小道と橋でつながったこの建物は何?
都心の閑静な住宅地。高さ10メートルほどの崖を背にした敷地を見た会社員女性(53)は「ちょっと山の中みたい」な雰囲気が気に入った。3匹の愛犬と暮らすつもりの家に、計画前から「ピークコテージ」と名付けた。
建築家の北山恒さん(72)が最初に作ったプランは、崖と反対側で道路のある西側に向き、2階をキッチンやリビング、3階を寝室とするもの。「崖を見ながら生活するっていうのはないだろうな、と」
女性も了承し、打ち合わせを重ねて詳細も決定したが、北山さんにはひっかかるものがあった。「どうしても〝崖の下にいる〟感じが強くなってしまう」。庭の見せ方などで解消しようと考えていたが、周囲も含めた地形断面図を描いてみて、気づいた。
崖の上には細い私道が通っている。その道路面が3階床面と同じ高さだった。ブリッジ(橋)を渡して入り口をつくり、直接入れる3階をリビングにすれば、崖を背負うハンディがむしろ魅力になるのでは。「全部の『解』があった」。ほぼ完成したプランをひっくり返すのは度胸が要ったが、長く住む人の生活を考えて思い切った。
地盤の強度を考え、2階以下はコンクリート、3階は軽い木造とした。切り妻屋根を生かした天井の高いリビングには、崖のある東側からも日光がふんだんに差し、庭木や崖上の緑が目に入る。
建築主の女性は、近郊の県から引っ越してきた。私生活でも苦労のあった時期に、すべて自分で決断してできた新居。「この家を建てて、ここで暮らしていろいろな決心がつくようになった。今も家に育てられているような感じがします」と話した。
(吉﨑未希、写真も)
DATA 設計:北山恒+岡田尚子/architecture WORKSHOP |
品川区の天王洲アイルにあるワットミュージアムは寺田倉庫がコレクターらから預かるアート作品を公開する。建築関連の展示も継続的に行い、16日までの「建築模型展 文化と思考の変遷」では埴輪から現代作品まで約20点を展示。10月27日~11月13日は体験型展示の「さわれる!建築模型展」を開催する。午前11時~午後6時。予約制。1200円。(月)((祝)の場合は翌平日)休み。