読んでたのしい、当たってうれしい。

私のイチオシコレクション

DIC川村記念美術館

作品×建築×自然 三位一体の美

「ブロンズの形態」ヘンリー・ムーア 1985~86年
ブロンズ 高さ442×幅240×奥行き76㌢

 

 印象派からシュルレアリスム、戦後のアメリカ美術まで、多彩な20世紀美術を収蔵する美術館として1990年にオープンしました。化学メーカー「DIC」の2代目社長、川村勝巳(1905~99)の代に作品収集が本格化し、「作品」「建築」「自然」の3要素の調和を重視した設計になっています。環境の豊かさを生かす設計が成立しているのは、この立地ならではですね。

 作品と自然が調和した例が、広場に置かれた英国出身の彫刻家、ヘンリー・ムーア(1898~1986)の代表作「ブロンズの形態」です。最晩年の作品で、人体の形態を抽象化した力強い作風が特徴です。生命力といった抽象的な概念への興味が表現されています。

 ぐるりと一周すると、方向によって違った表情が表れて、スパッと骨を切ったような断面にドキッとすることも。季節や日によって当たる光の様子が変わり、外ならではの楽しみ方ができます。敷地の奥の方にあるためか見ていない方もいらっしゃるので、ぜひ、知らないエリアまで足を延ばしてみてください。

 絵の具が飛び散る印象的な作品を描いた米国のジャクソン・ポロック(1912~56)は抽象表現主義の代表的な画家です。構図から焦点や中心をなくし、床にキャンバスを置いて絵の具を振りかけて描く「ドリッピング」を生み出しました。画面から焦点や中心をなくした均質な構図「オールオーバー」、床にキャンバスを置いて絵の具を振りかけて描く「ドリッピング」を生み出しました。一見、無作為な筆致に見えますが、本人は絵の具の飛び散り方や垂れ方をコントロールしていたと言われています。

 今回は普段の展示室と異なり、アーチ型の高い天井と広い壁面のある部屋の中央に展示しました。その強い存在感に、小ぶりながらも力のある作品であることを再認識できました。

 当館は3月いっぱいで休館となります。開催中のコレクション展示は、過去最多の作品が展示されています。設立当初からのコンセプトに基づく展示で、作品のために設計された展示空間を体感していただきたいと思っています。

 

(聞き手・片野美羽)

 

 

▼▼DIC川村記念美術館「ブロンズの形態」ヘンリー・ムーア作(Aプロ記者撮影)▼▼

 

 


 

 《DIC川村記念美術館》 千葉県佐倉市坂戸631。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。24日と3月31日を除く月曜、2月25日休み。1800円。「DIC川村記念美術館 1990―2025 作品、建築、自然」は3月31日まで。ハローダイヤル(050・5541・8600)。

コレクション展示の詳細は公式サイトで確認できる。
 ▶DIC川村記念美術館:
https://kawamura-museum.dic.co.jp/

 

すぎうら・かなこ さん

学芸員 杉浦花奈子さん

 すぎうら・かなこ 愛知県出身。東京芸術大学で美術史を専攻し、2018年から現職。専門は近現代美術。

私のイチオシコレクションの新着記事

  • 浜松市楽器博物館 多彩で豊かな音楽文化が芽吹く中南米。その秘密の一端は、海を渡ってきた楽器にありました。

  • ゴッホ「ひまわり」とともに 東京・新宿のSOMPO美術館に収蔵されているゴッホの「ひまわり」。絵の具の剝落やキャンバスの傷みが進むなかで、繊細な補修を重ねながら展示を続けています。

  • フェリシモ チョコレート ミュージアム フランスのヌベールにある老舗の洋菓子店「ネギュス」には、チョコレートのキャラメルをキャンディーで包んだお菓子が売られています。

  • 北里柴三郎記念博物館 近代日本医学の父と呼ばれ、新千円札の顔になった北里柴三郎(1853~1931)は、感染症の予防と治療の研究に生涯をかけました。

新着コラム