読んでたのしい、当たってうれしい。

私のイチオシコレクション

切手博物館

在りし日の女王、800枚でたどる 

切手博物館
エリザベス女王戴冠式記念切手 1953年
切手博物館 切手博物館

 35万種の切手を所蔵する当館では、2022年に亡くなった英エリザベス女王の生涯を切手で振り返る企画展示を6月29日まで開催中です。

 幼年期の愛らしいポートレート、公務中や家族と過ごすひとときを写した写真を用いた切手、在位記念や結婚記念切手など、女王に関する切手は約800枚。英国本土だけでなく英連邦の国々や海外領土でもそれぞれ発行され、その多彩さに驚きます。

 1953年発行の戴冠(たいかん)式記念切手は、全4種のうちの一つです。他の3種が肖像写真をもとにしているのに対し、この切手の女王は挿絵画家エドマンド・デュラック(1882~1953)が描きました。

 デュラックは「アラビアン・ナイト」「アンデルセン童話集」などの挿絵を手がけた人気の美術家で、先代のジョージ6世時代から切手デザイナーとしても活躍しました。この切手も本人さながらのりりしさ、緻密(ちみつ)な表現が人気となり、2000年にも復刻されました。

 戴冠式関連の切手は他にも数多くあります。女王が式場のウェストミンスター寺院に向かう場面、聖職者らに伴われた寺院内での様子、バッキンガム宮殿のバルコニーから手を振る姿など切手によってたどることができます。王冠、王笏(しゃく)、宝珠、玉座など王位を象徴する品々も、即位25年、50年などの節目に繰り返し切手のモチーフとなっています。

 英国の普通切手には在位中の国王の肖像が用いられます。エリザベス女王の即位後しばらくは公式写真に基づくデザインでしたが、67年からはアーノルド・マーチン作のレリーフをもとにしたいわゆる「マーチン切手」が使われてきました。

 額面ごとに色が違うほか、印刷方式や目打(切り離すための小穴)の違いなどを含めると、マーチン切手は500種以上に分類できるそうです。70年という在位期間の長さを、こんなことからも感じますね。

(聞き手・佐藤直子)


 《切手の博物館》 東京都豊島区目白1の4の23(問い合わせは03・5951・3331)。[前]10時半~[後]5時。200円。[月]休み。

 切手の博物館
 https://kitte-museum.jp/

たなべ・りゅうた

学芸員・田辺龍太

 たなべ・りゅうた 国学院大学文学部卒。美術印刷・出版会社勤務を経て1991年から現職。近著に「続・切手もの知りBOOK」。

(2023年6月13日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

私のイチオシコレクションの新着記事

  • 昭和のくらし博物館  今年は「昭和100年」ですが、昭和のくらし博物館は、1951(昭和26)年に建った住宅です。私たち小泉家の住まいで、往時の家財道具ごと保存しています。主に昭和30年代から40年代半ばのくらしを感じられるようにしています。この時代は、日本人が最も幸福だったと思います。日本が戦争をしない国になり、戦後の混乱期から何とか立ち直り、明るい未来が見えてきた時代でした。

  • 国立国際美術館 既製品の中にある織物の歴史や先人の営みを参照し、吟味し、手を加えることで、誰も見たことのないような作品が生まれています。

  • 滋賀県立美術館 画面を埋め尽くす幾何学模様の正体は……。人に見せるためにかかれたのではない、アートが発する魅力。

  • 富山県水墨美術館 もちもちした牛と、チョウやカタツムリなど周りを囲む小さな動物たち。ダイナミックさと細かい気配りが同居する「老子出関の図(部分)」は、富山市出身で、「昭和水墨画壇の鬼才」とも称される篁牛人(1901~84)の作品です。

新着コラム