読んでたのしい、当たってうれしい。

私のイチオシコレクション

小樽芸術村ステンドグラス美術館

英国最盛期の繁栄を伝える

「神とイギリスの栄光」 1919年ごろ イギリス 542×325㌢ 

 運河が有名な港町・小樽。運河近くに100年前に建てられた倉庫を利用した当館は、19世紀後半~20世紀初めの英国のステンドグラス約100点を収蔵しています。

 絵付けをしたガラスを組み合わせて模様や絵を表現するステンドグラスは中世以来、キリスト教の会堂の窓などに使われてきました。英国ではビクトリア朝時代を中心に色彩豊かなステンドグラスが多く作られましたが、20世紀後半以降、教会の取り壊しなどに伴ってステンドグラスが日本に多く流入しています。

 5本の高窓で構成された「神とイギリスの栄光」は収蔵品の中で高さが最大で、いちばん人気が高い作品でもあります。第1次世界大戦の戦勝記念と、戦争犠牲者の追悼のために制作されました。

 中央パネルの下部に、イングランドの守護聖人・聖ゲオルギウスが敵国に見立てた竜を退治する様子が描かれており、その上では敵を倒した英雄にイエス・キリストが冠を授けています。

 左右のパネルには英国を構成するスコットランド、アイルランド、ウェールズの各守護聖人と、連合国としてともに戦ったフランスの聖ジャンヌ・ダルクらが描かれています。この大きさで全てのパネルがよい状態で保たれた、貴重な作品です。

 「天使の祈り」は、当館に収蔵された時点で5枚のパネルのうち一番上にあるべきパネルが一番下に配置されていましたが、2019年に当館で大規模な修復を行い、制作当時の状態に戻しました。

 また自重でたわみ、ガラスが割れた部分には鉛テープで補修をし、パネルの裏側から真鍮(しん・ちゅう)の棒で補強しています。ガラスの接合に鉛を使うステンドグラスは大変重く、これらの作業は細心の注意を払って行われました。

(聞き手・深山亜耶)


 《小樽芸術村ステンドグラス美術館》 北海道小樽市色内1の3の1(問い合わせは0134・31・1033)。午前10時~午後4時(5月~10月は9時半~5時。入館は30分前まで)。千円。原則(水)(5月~10月は第4(水))、年末年始休み。

 小樽芸術村ステンドグラス美術館
 https://www.nitorihd.co.jp/otaru-art-base/stained-glass-museum/

じん・あかり

学芸員 神 朱里

 じん・あかり 北海道教育大学教育学部卒。2022年から現職。専門はステンドグラス。

(2023年4月18日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

私のイチオシコレクションの新着記事

  • 昭和のくらし博物館  今年は「昭和100年」ですが、昭和のくらし博物館は、1951(昭和26)年に建った住宅です。私たち小泉家の住まいで、往時の家財道具ごと保存しています。主に昭和30年代から40年代半ばのくらしを感じられるようにしています。この時代は、日本人が最も幸福だったと思います。日本が戦争をしない国になり、戦後の混乱期から何とか立ち直り、明るい未来が見えてきた時代でした。

  • 国立国際美術館 既製品の中にある織物の歴史や先人の営みを参照し、吟味し、手を加えることで、誰も見たことのないような作品が生まれています。

  • 滋賀県立美術館 画面を埋め尽くす幾何学模様の正体は……。人に見せるためにかかれたのではない、アートが発する魅力。

  • 富山県水墨美術館 もちもちした牛と、チョウやカタツムリなど周りを囲む小さな動物たち。ダイナミックさと細かい気配りが同居する「老子出関の図(部分)」は、富山市出身で、「昭和水墨画壇の鬼才」とも称される篁牛人(1901~84)の作品です。

新着コラム