食べ物の中で一番おでんが好きです。社会人になって「外でおでんを食べたことがない」って会社の同僚に言ったら、おいしいお店を探してくれて。それが日本橋のお多幸さんでした。
　まずはレモンサワーでのどを潤し、好物のはんぺん、卵、大根を頼みます。日本酒を飲んで締めに食べるのが「とうめし」。茶飯の上に、甘じょっぱいおでんのつゆが染み込んだ豆腐が、大胆にも一丁のっています。食材って食べやすい大きさに切るものだと思っていたので、とうめしに出合って「自炊する時、切らなくてもいいんだ」という発見にもつながりました。
　硬めのご飯と豆腐の軟らかさが相まって、おでんでおなかが満たされたはずなのに、まだ食べられる。とうめしを目指してここへ来る人がいるのも分かります。
　実家で食べていたおでんはどちらかというと関西風でしたが、お多幸さんの東京おでんは茶色くて濃い感じ。しょっぱいのかと思ったら、意外にも優しい甘さ。お酒も自然と進みますね。
　今度は母や兄弟と一緒に行きたいです。実家にいた頃、おでんは家で食べるものだったので、もしかしたら外のおでんはまだ経験したことがないかも。染み染みの茶色いおでんとインパクトのあるとうめしを頼んで、家族の反応を見てみたいです。

（聞き手・片山知愛）

　◆東京都中央区日本橋２の２の３　お多幸ビル（☎０５０・５４９２・２９６２）。とうめし430円。平日は午後４時半～10時半、土曜、祝日は午後４時～10時（ラストオーダーはそれぞれ１時間前）。日曜休み。

　フリーランスのライター、作家。1992年生まれ、茨城県出身。著書に、20代で６回の転職経験をつづったエッセー「転職ばっかりうまくなる」（百万年書房）ほか。