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水田航生さん
「千鳥屋宗家」 みたらし小餅

 中学3年のとき、ダンスと芝居を勉強するため、一人で初めて東京へ向かう僕に、新大阪駅で母が持たしてくれたのがこの「みたらし小餅」でした。大阪の実家近くにもお店があって、母が大阪らしいものを考えてくれたみたい。一口大のお餅の中に、醬油だれがとろっと入っていて、いくつでも食べられます。東京では珍しいお菓子だったからか、上京して一人で心細い時に周囲との会話のきっかけも作ってくれて、事務所や関係者への手土産は、しばらくこれに決めていました。
 母に後から聞くと、ホームで僕を笑顔で見送った後、階段で泣いたらしいんです。わが子が手元から離れていくようで寂しかったのだとか。僕も東京に出るのは大冒険。周りの同年代すべてが自分より上手に見えて、思うように力が出せず、帰りの新幹線で何回、悔し泣きしたことか。今でもこのお餅を食べると当時がよみがえってきて、よし、頑張ろうって思います。
 劇作家カレル・チャペックの代表作を舞台化する「ロボット」に研究者役で出演します。ロボットが意思を持って人間に反乱を起こすストーリー。思えば、食べることは生きる上で基本ですね。AI(人工知能)が普及する現代に、揺れ動く生身の心を大切にしながら本番へ突き進みます。(聞き手・鈴江元治)

 

◆兵庫県西宮市六湛寺町14の4。12個入り670円。ホームページ、大阪の主要駅や空港でも購入可。問い合わせは☎0120・230・877(平日午前9時~午後5時)。

 

みずた・こうき 俳優。1990年大阪府生まれ。長身を生かしたダイナミックなダンスと演技で活躍。11月16日~12月1日にシアタートラム(東京都世田谷区)、12月14、15日に兵庫県立芸術文化センター(西宮市)で、舞台「ロボット」(潤色・演出、ノゾエ征爾)に出演する。

(2024年9月26日付け朝日新聞夕刊の掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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