秋山寛貴さん(お笑い芸人)
「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
「マスク」(1994年) 何をやってもうまくいかない主人公・スタンリーがマスクをつけると、ハイテンションな超人に大変身し、アパートから外出するために大暴れする。
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大名の世継ぎ騒動を下地に、ご落胤(らくいん)、あだ討ち、捕物といった時代劇でおなじみの要素にあふれています。昔の映画の筋立てがどれも似ているのは、歌舞伎などのパロディーだからでしょう。
当時16歳だった美空ひばりが演じるのは、岡っ引きの善七の娘おみよ。歌と投げ縄が得意な娘で、体が弱った父の代わりに江戸の町を駆け回っています。が、実は彼女は、大名が16年前に侍女に産ませ、印籠(いんろう)とともに善七に引き取らせた落としだねだったのです。
善七から印籠を奪い、自分のバカ息子を若殿に仕立て上げようとした商売敵の岡っ引きは、「アジャパー」のセリフで有名な、伴淳(ばんじゅん)こと伴淳三郎。善七の子分役には、堺正章のお父さんである堺駿二。昭和の名喜劇役者もこの映画を盛り上げています。
この作品は中学1年の頃、僕の住む伊豆の漁村に月1回やってくる巡回映画で見ました。神社の境内に村人たちがゴザを敷いてね。白い布が夜空にはためいて、ひばりの歌声が風に乗って飛んでいく。そんな光景が今も忘れられません。
ひばりの本当の良さは、代表曲「川の流れのように」だけではなく、この昭和20年代の映画にある気がします。彼女はかわいそうな孤児の役ばかりだった。まるで敗戦当時の世相を写す鏡のようでした。僕の小学校時代の集合写真を見ると、みんなボロボロの格好ですよ。彼女は時代の空気そのものだったんです。
聞き手・曽根牧子
監督=斎藤寅次郎
脚本=八住利雄
出演=美空ひばり、市川小太夫、水原真知子、堺駿二、川田晴久、伴淳三郎ほか あき・りゅうざん
1942年生まれ。一コマや四コマのナンセンス漫画を描く。2006年、日本漫画家協会大賞。伊豆新聞に「そうずら君」を連載中。 |