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私の描くグッとムービー

山本二三さん
(アニメーション背景画家・美術監督)
「楢山節考(ならやまぶしこう)」
(1983年)

老母の自己犠牲と、春を迎える村

 山本二三さん(アニメーション背景画家・美術監督「楢山節考(ならやまぶしこう)」(1983年)

 

 古民家が好きで、昔の風景を再現した映画を見るとうれしくなります。姥(うば)捨て伝説をもとにした「楢山節考」は、江戸末から明治ごろの信州が舞台。わらぶき屋根の家や古い綿の着物まで、実によく作り込まれています。

 70歳を目前にしたおりんは、村のしきたりに従い、口減らしのための楢山参りを決意。老いても立派な歯を恥じて石臼にぶつけて砕くシーンは衝撃的です。

 貧しさから赤子が捨てられたり、盗みをはたらいた一家が生き埋めにされたりと、残酷なシーンもある。辛い場面は作り手側に回っても、感情移入して苦しいです。35年ほど前、「ルパン三世 カリオストロの城」で骸骨を山ほど描いたときは、臭いたつような骨の画にあてられて、しんどくて毎晩飲んでいました。

 楢山の頂上にも人骨が広がっていましたが、恐怖感はありません。お年寄りたちの気高い自己犠牲の上に村があると思ったからです。

 楢山参りの途中でも息子をいたわる母の姿、そして禁を破って母のもとに引き返した息子の行動には心動かされます。この作品がカンヌ国際映画祭で評価され今でも感動を呼ぶのは、どんな状況にあっても力強く、他者を思いやる優しい人でありなさいという普遍的なことを教えてくれるからなのでしょう。

 四十九日がたてば、おりんの魂は家族のもとに戻ってくるんじゃないか。そんな思いをこめて、春を迎えようとする里村を描きました。

聞き手・中村和歌菜

 

  監督・脚本=今村昌平
   原作=深沢七郎
     出演=緒形拳、坂本スミ子、あき竹城、倉崎青児、              高田順子、嶋守薫ほか
やまもと・にぞう
 1953年生まれ。「もののけ姫」「時をかける少女」などの美術監督。35年の軌跡をたどる作品展は8月4日から静岡市美術館に巡回。
(2014年7月4日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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